免疫療法などへの応用が期待されるレンチウイルスベクター
東京医科歯科大学は10月9日、遺伝子治療などに使われるレンチウイルスベクターの産生を飛躍的に増大させる方法の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の山岡昇司教授と芳田剛助教の研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載された。
画像はリリースより
レンチウイルスベクターは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の有害な遺伝子をすべて除去した後に、発現させたい遺伝子などを組み込んで作製する。近年は分子生物学実験における遺伝子導入だけでなく、ヒトの遺伝性疾患に対する遺伝子治療やがんの免疫療法などへの応用が期待されている。
レンチウイルスベクターは通常、293Tあるいはその派生細胞株にウイルスを構成するためのタンパク質と遺伝子を発現するプラスミド遺伝子を一過性に導入することで作製される。使用する細胞株が接着細胞であることと、一過性遺伝子導入に依存しなければならないことが、医療や前臨床試験などに必要な大量のレンチウイルスベクターを安価に製造する上での課題となっていた。また、放出されたウイルス粒子の濃縮や精製のための技術は、さまざまなものが開発されてきたものの、細胞からのウイルス産生自体を向上させる技術開発は十分ではなく、大量生産のための技術開発とコストダウンが求められている。
ヒトT細胞株への遺伝子導入効率が10倍を超えて増大
研究グループは、レンチウイルスベクターを構成するためのプラスミドとともに、ヒトの内在性遺伝子産物のSPSB1あるいはヒトT細胞白血病ウイルスの転写促進因子Taxを発現するプラスミドを同時に産生細胞に導入することで、レンチウイルスベクター産生用遺伝子の転写を促進し、ウイルス粒子産生と標的細胞への遺伝子導入効率を飛躍的に増大させることに成功。とくにTaxを共発現させることで、レンチウイルスベクターによるヒトT細胞株への遺伝子導入効率が10倍を超えて増大したが、濃縮・精製したレンチウイルス粒子内へのTaxの取り込みは認められず、安全性が確保されていることもわかったという。
研究グループは、「細胞からのレンチウイルスベクター産生量を増大させる技術は、医療用あるいは前臨床試験用に必要な大量のレンチウイルスベクターの産生コスト削減に貢献することが期待される」と述べている。
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