■小児臨床薬理学会で議論
小児の外来診療で抗菌薬適正使用をいかに進めていくか――。6日に都内で開かれた第45回日本小児臨床薬理学会学術集会では、国家的な課題となっている薬剤耐性(AMR)対策をめぐって議論した。臨床現場の最前線で診療する小児科医からは「外来診療で抗菌薬の必要性はほとんどない。必要な場合も大枠はペニシリン系のアモキシシリンで治療可能」との見解が示され、診療所でグラム染色に取り組んできた薬剤師も「必要な抗菌薬はペニシリン系」と指摘。小児の外来診療で抗菌薬が必要な場合、ほとんどペニシリン系で対応できるとの見解で一致した。
伊藤健太氏(あいち小児保健医療総合センター総合診療科)は、小児の外来診療で多い主訴が発熱で、その原因の多くがウイルス感染症のかぜであることから「ほとんど抗菌薬は必要ない」と指摘。抗菌薬が必要な疾患として急性中耳炎、急性咽頭炎を挙げた。急性中耳炎の原因菌で自然軽快率が20%と低い「肺炎球菌がターゲット」とし、「外来で診るような髄膜炎以外の肺炎球菌には、感受性が高いペニシリン系抗菌薬をしっかり使うことが必要」との考えを示した。
急性咽頭炎では「原因菌がA群溶血性連鎖球菌の場合のみが治療対象となる。中心はアモキシシリンで治療可能」との見解を示し、「抗菌薬治療の大枠はペニシリン系のアモキシシリンがあれば良い」と結論づけた。それでも、小児の外来診療で抗菌薬治療の必要性はほとんどないとし、出し時を判断できる診療を行うよう呼びかけた。
診療所で働く薬剤師の前田雅子氏(まえだ耳鼻咽喉科クリニック)は、より適正な抗菌薬使用に向け、2004年から抗菌薬の判断、選択のためグラム染色を導入した取り組みを紹介した。クリニックで医師が検体を採取し、薬剤師の前田氏が染色と観察を行い、起炎菌を推定して医師に抗菌薬を提案するという流れだ。さらに前田氏は、患者と家族にも染色結果の画像を示し、推定される起炎菌の種類や抗菌薬処方の根拠を説明。こうした取り組みを進めた結果、抗菌薬の処方率は導入前の96%から64%に3割減少した一方、平均治療期間29日から19日に短縮し、平均保険点数も2413点から1857点に下がって医療費削減につながった。
これらのことから、前田氏は「現在では患者100人当たりの処方件数は4~5人であり、必要な抗菌薬はほとんどペニシリン系である」と指摘。「処方件数が減少した背景には、保護者の理解と気持ちの変化が大きかった」と振り返った。
そのターニングポイントは「抗菌薬なしで治ることを体験したことで、納得から理解につながった」とし、「抗菌薬の適正使用は身をもって体験するのが一番」との考えを示した。
■薬局薬剤師の1割が行動-AMR対策で患者啓発など
一方、山口県の薬局薬剤師、三浦哲也氏(アップル薬局)は、県薬剤師会の会員を対象にAMRの認識と現時点での活動状況について調査した結果を示した。AMRの言葉については、93.2%が知っていると回答したが、AMRリファレンスセンターは11.0%とわずか1割しか認知されていなかった。
厚生労働省の啓発資料について、機動戦士ガンダムを起用したポスターを見たことがある人は50.2%と半数に届いたが、その他の認知度は低かった。また、実際にAMR対策で何らかの行動を起こしたか尋ねると、起こしたと回答した薬剤師は9.7%であり、起こす予定も含めて1割程度いることが分かった。
具体的な活動内容としては、病院薬剤師はICT、ASTへの参画、薬局薬剤師では処方された抗菌薬を自己判断による中断や服用量の加減をしないよう患者に啓発するなどの取り組みが挙げられた。この結果を踏まえ、三浦氏は「AMRアクションプランが薬剤師に浸透しているとは言い難い」とし、継続的な普及啓発の必要性を訴えた。