■国の要求と現場に乖離も
東北医科薬科大学病院薬剤部は、電子カルテのテンプレート機能を活用して院内副作用報告を一元管理する仕組みを構築し、今年4月から運用を開始した。副作用報告は医療機関からの件数が少ないことが課題になっていたが、同院では院内で発生した副作用を医薬品情報(DI)室で効率的に管理する体制を構築。医薬品医療機器総合機構(PMDA)への報告を判断する基準も定めたところ、医療従事者の負担軽減につながり、報告件数の増加につながった。DI室を担当する菊池大輔主任薬剤師は、さらに医療機関からの報告を増やすためにも、国の報告書の項目数見直しや報告基準の明確化を提言している。
医療機関で医薬品による副作用が発生した場合、厚生労働省への報告が薬機法で義務づけられているが、医療機関からの報告は少なく6000件前後で推移しており、大半は製薬企業から報告されているのが現状。同院でも副作用に関する明確な取り決めはなく、病棟薬剤師による薬剤管理指導で副作用モニタリングが行われていたものの、個人の裁量に任されており、PMDAへの副作用報告は過去10年間で数件にとどまっていた。
そこで今年4月から、医薬品の副作用についてDI室で一元管理する体制を整備すると共に、PMDAへの副作用の報告基準も定めた。DI室による副作用情報の一元管理に当たっては先行事例を参考に、報告の方法、書式、項目を決定し、電子カルテのデータを自動的に収集してテンプレートに表示できるエクスチャート機能を活用して業務の効率化を図った。
具体的には、副作用を発見した医師、薬剤師等の医療従事者が電子カルテで報告し、DI室担当薬剤師が報告内容を確認。院内の報告基準と照らし合わせた上でPMDAに報告する流れとなる。
DI室からPMDAに報告するのは、院内から報告された全ての副作用のうち、▽添付文書に記載がない未知の副作用▽有害事象共通用語基準(CTCAE)分類グレード3以上の副作用▽医薬品リスク管理計画(RMP)に記載される重要な特定されたリスク、重要な潜在的リスクに該当する副作用――の独自基準を含め7項目。
実際に運用をスタートした4月16日から8月31日までの期間で評価を行ったところ、報告された院内副作用報告は61件となり、そのうちPMDAに副作用報告を行ったのは10件だった。副作用の重篤度は、CTCAE分類でグレード3以上が9件となったが、グレード1でもニボルマブの薬剤関連大腸炎はRMPの重要な特定されたリスクであり、これは薬剤師として報告する意義はあると判断した。分類不明の副作用も全体の2割あった。
これまで医療機関からの副作用報告が少なかった背景には、PMDAへの報告書の記載項目が多く、容易な報告を妨げている可能性があるとの指摘があった。実際に報告書への記載に30~60分かかり、多忙な日常業務の中、報告書作成に一定時間を確保することは難しいとされる。
今回、同院で運用を開始した電子カルテのエクスチャート機能を活用した院内副作用報告システムでは、入力された翌日に全ての報告内容がDI室で一括抽出されるため、DI担当者は効率的に内容を確認できるメリットがある。エクスチャートのテンプレートは、富士通製電子カルテであれば他施設でも共有できるため汎用性が高い。
ただ、院内副作用報告の効率的な一元管理を実現できたものの、報告件数は伸び悩んでいる。菊池氏は、「薬剤師としては副作用報告をもっと上げたいが、PMDAへの報告書の記載項目が多く、日常業務に追われて記載時間を確保できない。報告後もハガキで通知されるのみで報告内容に過不足があったか不明」と課題を指摘。医療従事者の負担を軽減するため、「副作用報告書の項目数や報告基準を使いやすく見直してほしい」と話している。