30分~4時間周期の体内時計「ウルトラディアンリズム」
北海道大学は9月19日、30分~4時間周期の体内時計であるウルトラディアンリズムを生み出す脳領域を特定したと発表した。この研究は、同大電子科学研究所の榎木亮介准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「米国科学アカデミー紀要」のオンライン速報版で公開されている。
哺乳類の約24時間の概日リズムの中枢は、深部の視床下部にある視交叉上核に存在する。網膜を介して光情報を受けて固有の周期を24時間に調節し、全身の細胞や臓器に統一のとれたリズム情報を伝達している。近年の研究により、概日リズムを生み出す分子や細胞レベルでのメカニズムが次第に明らかとなってきた。概日リズムの乱れは高血糖、高脂血症、高血圧などのリスクファクターとなり、体と心のさまざまな変調を引き起こして、生活習慣病やうつ病の発症率を上げることが知られている。
一方で、哺乳類の生体内では、レム-ノンレム睡眠サイクルやホルモン分泌など、さまざまな生理機能に数十分~数時間の短い周期のウルトラディアンリズムが観察される。視交叉上核を切除した動物では、行動や食事リズムなどにウルトラディアンリズムのみが観察されることから、概日リズム中枢とは別の領域に、ウルトラディアンリズムを生み出す領域があると推察されていた。しかし、これまでウルトラディアンリズムを長期的・高精細に計測するのに適した方法がなく、ウルトラディアンリズムを生成する脳の領域がどこにあるのかは不明だった。
視床下部の室傍核と傍室傍核領域に存在
これまで研究グループは、独自に開発した神経活動の長時間の計測法により、細胞内カルシウムの変化を指標として、視床下部にある概日リズム中枢の神経細胞の働きを調べてきた。今回、概日リズム中枢のすぐ近くにある室傍核と傍室傍核領域で、細胞内カルシウムのウルトラディアンリズムを発見。さらに、この領域の神経細胞ネットワークの同期活動が、ウルトラディアンリズムの生成に重要であることを解明した。
画像はリリースより
室傍核と傍室傍核領域には、さまざまなホルモンを産生する神経細胞が局在しており、さらに他の脳領域にリズム情報を伝達して、体温や睡眠サイクルを調節すると推察されている。このことから、同研究で見出したウルトラディアンリズムは、生体内のさまざまな生理機能のリズムを制御していると考えられるという。
近年の研究により、極端な夜型生活、慢性的な睡眠不足、交代勤務などによる生物リズムの乱れが生活習慣病の誘因となることがわかってきており、生物リズムの基礎的研究はますます重要性が増している。特に今回の研究で得られた新たなウルトラディアンリズム知見は、これまでの概日リズムの知見と統合することで、生体リズムや睡眠障害の新たな治療法や予防法の開発につながり、健康増進に寄与すると期待される。
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・北海道大学 プレスリリース