■MR経て13年前に起業
製薬会社にウェブ講演会運営・配信サービスを提供する木村情報技術(本社佐賀市、社長木村隆夫氏)は、人工知能(AI)事業の拡大に力を注いでいる。AIを活用してコールセンター業務を支援したり、社内に集積された様々なビッグデータを解析したりするサービスを、製薬会社や一般企業を対象に幅広く導入したい考えだ。薬剤師の医薬品情報(DI)業務や、薬学生の学習・就職活動におけるAIの活用も推進する。今後5年間でAI事業の売上高を70億円に伸ばし、総売上高を現在の約4倍、100億円に引き上げる計画。薬剤師資格を持つ木村社長がMRを経て同社を創業したのが13年前。AI事業を主軸に大きく飛躍する時期を迎えた。
同社は2016年にソフトバンクと契約を交わし、IBMのAI「ワトソン」を活用するパートナーの座を射止めた。以降、AI関連サービスの開発に力を注いできた。木村社長は「この2年間、AI事業に積極的に投資し、スタッフの大幅な増員とシステム開発を進めてきた。現在進行している19年6月期から、その成果を花開かせたい」と語る。
18年6月期の売上高は約23億円。その9割以上は製薬会社向けウェブ講演会運営・配信サービスの売上。19年6月期にはAI事業として新たに10億円の売上を積み上げ、合計34億円の売上高を目指すという。
AI関連商品の一つが、社内外の問い合わせへの回答にAIを活用するサービス。質問内容を自然な話し言葉でそのまま入力すると、AIが質問の意図を読み取った上で、Q&Aデータベースの中から適切な回答を提示するもの。
製薬業界では第一三共がコールセンターの業務支援を目的に、今年4月からこのサービスを全面的に導入した。問い合わせを受けたオペレーターが電話口で質問内容を復唱すると、その音声をAIが認識し、コンピュータ画面上で即座に回答候補を提示する。コールセンター業務の品質向上や質問者の待ち時間短縮、経費の効率化につながる。
現在、約20社の製薬会社がこのシステムを採用。コールセンターで活用するほか、MRの問い合わせに学術担当者が回答するなど、社内の様々な応答業務に役立てている。一般企業からの引き合いも多い。
将来は、コールセンターで人を介さずにAIが直接問い合わせに回答することも可能。質問を文字で入力すれば、AIが回答する。音声認識技術が発展すれば、音声での問いかけも実現するという。
■社内に眠るデータ、解析可能に
このほか最近「社内に眠っているデータを掘り起こして役立てるシステムを開発した」(木村社長)。アンケートや業務日報、コールセンターの問い合わせ記録など、日々集積しているものの十分に整理や活用がされていないデータをAIで解析できるように整理、構造化するもの。
例えば、▽アンケートのフリー記載欄を解析して潜在的なニーズや改善点を発見する▽できる営業マンとそうでない営業マンの業務日報を比較し、収益向上につながる行動を明らかにする――など様々な切り口での活用が可能。AI事業の柱になると見込み、各業界の大手企業への浸透を図る計画。
薬系大学生の日常生活や就職活動をAIが支援するシステムの提供も9月から開始した。学生は、自身の学修履歴や課外活動、趣味などのデータをポータルサイトで蓄積し、就職活動時のアピール材料として役立てる。AIによる性格分析も受けられる。このシステムに参画する採用側の企業は、それを見て学生の人物像や適性をしっかり把握できる。学生と企業の就職時のミスマッチを防ぐのが狙いだ。学生からの問い合わせに、大学や企業がAIを活用して自動的に回答する仕組みも備えている。
学生や大学の利用は無料。採用側の企業が費用を支払う。「AIを売るだけではなく、AIを無料で使えるプラットフォームを立ち上げて広げるという発想。究極のリクルートビジネスになる」と木村社長は話す。
薬剤師のDI業務を支援するAIサービスの開発も進めている。このほど岡山大学病院薬剤部と共同で、調べたいことを自然な話し言葉で入力すると、その意図をAIが読み取って、薬剤部内に蓄積されたQ&Aデータベースの中から最適な回答を提示する仕組みを構築した。各病院や薬局が蓄積しているQ&Aを集約し、AIを活用して薬剤師のDI業務を支援するシステムの構築も視野にあるという。