観察に高度な技術を要する胎児の心臓超音波検査
理化学研究所は9月18日、人工知能(AI)を用いて胎児の心臓異常をリアルタイムに自動検知するシステムを開発したと発表した。この研究は、理研革新知能統合研究センターがん探索医療研究チームの小松正明研究員、浜本隆二チームリーダー、理研AIP-富士通連携センターの原裕貴副連携センター長(富士通株式会社執行役員)、昭和大学医学部産婦人科学講座の松岡隆准教授らの共同研究グループによるもの。
画像はリリースより
近年、小児循環器内科や小児心臓血管外科の治療技術の進歩により、先天性心疾患の新生児に治療を施した際の予後が著しく改善している。さらに、胎児期に診断され出生直後から1週間以内に治療を行うと、出生後に診断され手術などの治療を行った場合に比べ、治療成績が良好であるということもわかっている。そのため、早期診断後に、産婦人科・小児循環器内科・小児心臓血管外科の協力のもと、出生前より綿密な治療計画を立てる必要がある。
しかし、胎児の心臓は小さく、構造が複雑で動きも速いため、超音波検査での観察には高度な技術が必要だ。また、検査の技術が経験などに依存するため、検査者間で大きな差がある。さらに、昨今の日本における産婦人科医の減少・都市部への偏在による人材不足も相まって、地域間で受けられる医療レベルに格差が生じている。
異常をリアルタイムに自動検知、「確信度」を一覧表示
今回、研究グループは、アノテーション(意義づけ)済み教師データからの学習により、粗い超音波画像に対しても画像中に映る複数の物体の位置・分類を高い性能で判別できるAI技術である「物体検知技術」を活用し、胎児の心臓構造の異常を自動検知する技術を開発。また、各部位の「確信度」を一覧表示することで検査を迅速化し、結果の把握・説明を簡便化する、新しい検査結果表示システムも開発した。
今後、昭和大学病院4病院の産婦人科で実証試験を本格的に進め、数十万枚もの胎児超音波画像を追加取得しAIに学習させることで、スクリーニング精度の向上・実証と検査対象の拡大を図る予定。さらに、2020年度までに富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」への適用を行い、クラウド、オンプレミス、超音波機器メーカーとの提携など、多様な形態でAIによる胎児心臓超音波スクリーニングの世界に先駆けた社会実装(早期臨床応用)の実現を目指すとしている。
研究グループは、「本システムの社会実装により、検査者のトレーニングやクラウド化による遠隔診断の実現で、地域間の医療格差の大幅な是正が行われ、医師不足に悩む周産期、新生児医療の発展を通して、さらなる安全な妊娠・出産の実現が期待できる」と述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース