慢性便秘症、治療では患者が重視する腹部症状の改善を
アステラス製薬株式会社は2018年8月21日、グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニスト「リンゼス(R)錠0.25mg」(一般名:リナクロチド)が慢性便秘症を効能・効果として追加承認を取得したことを発表した。これを受けて同社は9月11日、都内でメディアセミナーを開催。「症状に応じて使い分けが進む慢性便秘症治療の最新事情」と題し、兵庫医科大学内科学消化管科主任教授の三輪洋人氏が講演した。
兵庫医科大学 内科学消化管科 主任教授 三輪洋人氏
2017年に刊行された『慢性便秘症診療ガイドライン』1)では、便秘症を「本来体外へ排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義している。海外のシステマティックレビューでも、便秘症患者は健康な人と比べ、QOLが低下することが指摘されており2)、便秘は治療が必要な疾患だ。しかし、三輪氏らが2014年に20~70代の5,000人超を対象に実施したインターネット調査では、自分が便秘であると自覚している回答者は28.4%に上ったものの、便秘を治療すべき疾患ととらえている割合は全回答者のうち48.8%と、半数以上が便秘を病気とは考えていないことが明らかになったという3)。
また、三輪氏らの別の調査では、慢性便秘症治療に対する満足度は、医師に比べて患者のほうが総じて低いことが明らかになっている4)。三輪氏は、調査の結果から、医師が排便回数を重視して治療を行っているのに対し、患者が困っている症状は腹部膨満感などの主観的な症状であり、両者が重視している点にギャップがあると指摘。慢性便秘症の治療においては、患者が求める腹部症状の改善を目指した治療戦略が求められるという。
酸化マグネシウムが使いにくい高齢者への選択肢は
慢性便秘症の治療薬には、緩下剤(浸透圧性下剤・上皮機能変容薬)、膨張性下剤、大腸刺激性下剤、消化管運動機能改善薬があるが、ガイドラインで推奨されているのは、緩下剤の浸透圧性下剤と上皮機能変容薬だ。一方で、一般用医薬品(OTC)にはセンナやセンノシド、ビサコジルなど大腸刺激性下剤を主な成分とするものが多いが、大腸刺激性下剤は習慣性や依存性があり、注意が必要だという。また、便秘に使われる漢方薬のなかにも、センノシドなど刺激性下剤の成分を含むものもあることも指摘した。
浸透圧性下剤には酸化マグネシウムのほか、ラクツロース、ソルビトール、ポリエチレングルコールなどがあるが、わが国でよく使用されているのは酸化マグネシウムだ。効果の高さと価格の安さから、三輪氏の勤める兵庫医科大学の関連病院でも、最も多く使用されている治療薬だという。しかし、高齢者や腎機能低下例では高マグネシウム血症を発症する恐れがあるため注意が必要で、こうした患者に投与する場合はマグネシウムの定期的な測定が求められる。
浸透圧性下剤と並んで、ガイドラインで推奨されている上皮機能変容薬は、腸管上皮に直接作用して腸管腔内への水分分泌を促す薬剤だ。上皮機能変容薬のひとつ、「リンゼス」は、便水分量増加により大腸通過時間の短縮をもたらすだけでなく、求心性神経の痛覚過敏を抑制するため、腹痛や腹部膨満感などの症状を訴える患者にも有効だ。酸化マグネシウムが使いにくい患者に対しては、よい治療選択肢になるという。同剤の適応追加により、治療選択肢が充実した慢性便秘症治療。患者のQOL向上への寄与が期待される。
1)日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編:慢性便秘症診療ガイドライン2017, 南江堂, 2017
2)Belsey J et al.:Aliment Pharmacol Ther. 2010;31(9):938-949
3)Tamura A et al.:J Neurogastroenterol Motil. 2016;22(4):677-685
4)三輪洋人ほか:セラピューティック・リサーチ 2017;38(11):1101-1110
▼関連リンク
・アステラス製薬 ニュース