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AIによるNMR化学シフト予測で世界最高精度を達成-理研

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2018年09月14日 AM11:30

量子化学理論と機械学習法の組み合わせで予測精度を向上

)は9月12日、機械学習アルゴリズムの探索により、核磁気共鳴()化学シフトの予測を世界最高精度で達成したと発表した。この研究は、理研環境資源科学研究センター環境代謝分析研究チームの菊地淳チームリーダー、伊藤研悟特別研究員らの研究チームによるもの。研究成果は「Chemical Science」に掲載されている。


画像はリリースより

研究チームはこれまで、機械学習やベクトル自己回帰モデリングを駆使した赤潮発生時の重要因子可視化や、深層学習を駆使した天然魚の地域判別に関わる重要因子抽出法を開発してきた。NMR法は、携帯電話に近い周波数帯のラジオ波を利用する分光法で、計測する化合物の分子構造に応じて、固有の化学シフト周波数にシグナルが観測される。この化学シフトは、化合物の分子構造さえ与えれば量子化学理論で演繹的に予測できるが、その理論値と実測値には誤差があるため、補正値が必要だった。そこで、研究チームは、量子化学理論に基づく演繹的なアプローチと、機械学習による帰納的なアプローチを組み合わせることで、化学シフト予測精度のさらなる向上が見込めると考え、その手法の開発に着手した。

ヒト検体などのビッグデータを簡単な試料調製法で取得可能

研究チームは、化学シフトの予測モデルを作成するため、多様な化学構造を持つ150の化合物の化学シフトとスピン結合定数の理論値を、コンピュータを用いた量子化学計算により算出。次に、これらの化合物の1Hと13Cの化学シフトを、実際にNMR法を用いて取得し(実測値)、SpinAssignなどのデータベースを用いて化合物の各部分骨格(部分構造)の同定を行った。そして、化学シフトの理論値と実測値の誤差を「目的変数Y」、理論化学シフト、理論スピン結合定数、構造記述子(隣接する元素の種類と個数)、極性溶媒の種類などを「説明変数X」とし、予測モデル作成のための機械学習用の学習データセットとした。91種類の機械学習アルゴリズムを用いて予測モデルを網羅的に作成・評価し、最良の予測モデルを探索したという。

その結果、化学シフトの予測に最も適した機械学習アルゴリズムを見つけ、最良の予測モデルを作成。また、34の標品化合物と既報の海藻成分を用いて、シグナル予測・帰属の汎用性を検証した結果、従来の量子化学計算のみの手法および機械学習のみの手法よりも、精度の高い、世界最高精度の化学シフトの予測が可能であることが明らかになった。

「IoT/」時代の到来により、AI予測に必要な分析ビッグデータの蓄積が求められている。NMR法は農林水産物やヒト検体などの代謝混合物を対象に、簡単な試料調製法でビッグデータを取得することに適している。最近では、NMR装置のコストダウンや小型化が進んでいることから、一連の研究成果は今後、簡易NMR装置とAIアルゴリズムによる評価手法が普及することで、重要因子を代謝マーカーとした人間や農産物の恒常性予測と管理につながると期待できる、と研究チームは述べている。

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