有用な疾患活動性マーカーがないことが治療の障壁に
医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)は9月10日、炎症性腸疾患の疾患活動性マーカーとして、ロイシンリッチα2グリコプロテイン(LRG)を発見したと発表した。この成果は、同研究所免疫シグナルプロジェクトの仲哲治プロジェクトリーダーが、慶應義塾大学医学部、大阪大学大学院医学系研究科、東京医科歯科大学消化器内科らの共同研究によるもの。
炎症性腸疾患は、腸管に慢性・再発性の炎症を引き起こす原因不明の難病で、潰瘍性大腸炎とクローン病に大別され、厚生労働省により指定難病に定められている。標準的治療としては、5-アミノサリチル酸製剤やステロイド製剤、免疫調節薬が使用されてきたが、近年生物学的製剤である抗TNF-α抗体製剤の導入により、劇的に治療成積が向上。内視鏡的に炎症がない状態である粘膜治癒も達成可能となった。現在の治療指針としては、各種薬剤を適切に組み合わせ、粘膜治癒をもたらすことが病勢のコントロールと再燃予防に重要とされているが、粘膜病変の活動性を反映する有用なバイオマーカーがないことが、炎症性腸疾患治療の障壁となっていた。
積水メディカルがLRGの迅速な定量法を開発
研究グループと積水メディカル株式会社は、LRGの迅速な定量法を開発・実用化するため、「炎症性腸疾患の疾患活動性評価の血清バイオマーカー」の開発に着手。臨床性能試験の結果、炎症性腸疾患の疾患活動性を評価する上で血清LRGが有用であることが認められたため、2016年3月31日に厚生労働省に体外診断用医薬品として製造販売承認申請を行い、2018年8月21日付けで製造販売承認取得に至ったという。
今回共同開発した炎症性腸疾患の疾患活動性を迅速に測定するLRG測定方法は、患者から採取した少量の血液を用いて、血清中のLRGの濃度を、ラテックス免疫比濁法とよばれる測定方法により数分で測定するもの。この測定は検査施設を持つ病院で実施可能で、その日の診察の間に結果を得ることができるという。
血液中のLRG濃度は、従来の血液マーカーよりも内視鏡検査による疾患活動性評価と非常に強く相関するため、治療に伴う疾患活動性の変化を簡便かつ適切に評価でき、不要な内視鏡検査を回避することや、治療薬の増減や変更を判断することが容易になる。さらに炎症性腸疾患以外にも、バイオ製剤使用時の関節リウマチなど、さまざまな炎症性疾患への応用が可能になるとして、今後の研究に期待が寄せられる。なお、これら一連の研究は、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業の支援を受けて実施された。
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・医薬基盤・健康・栄養研究所 プレスリリース