不明だった世界のICUでの気管切開の使われ方
順天堂大学は9月10日、ヨーロッパ集中治療医学会と国際共同研究で疫学調査を行い、世界50か国の急性呼吸窮迫症候群患者に対する気管切開の使い方についての解析により、今まで不明であった世界の集中治療室(ICU)での気管切開の使われ方を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医院総合診療科の阿部智一医師らの研究グループによるもの。研究成果は「Critical Care」オンライン版で公開されている。
急性呼吸窮迫症候群は単一の病気ではなく、肺炎や外傷などさまざまな原因によって生じる急性の呼吸不全症候群を指す。治療は呼吸管理を中心とする全身管理と薬物療法の2つに分けられるが、生存率改善につながるような薬物療法は開発されていない。
呼吸管理において、気管切開は人工呼吸器管理を行う上でメリットがあるものとされているが、侵襲的な処置であり、当たり前に行われているにも関わらず、世界中でどのように処置されているかのかは、未だ明らかにされていなかった。そこで、研究グループは世界50か国における気管切開の使い方を調査し、今後の気管切開の使用方法や疾患対策への足がかりとすることを目的とし、調査を実施した。
急性呼吸窮迫症候群でICUに運ばれた患者の13%に実施
まず、欧州集中治療学会と共同で、世界5大陸50か国459ICUの急性呼吸窮迫症候群患者の大規模調査を2014年冬の1か月に実施。その結果、急性呼吸窮迫症候群は未だ正確に認知されておらず、そのことが予後不良につながっていると考えられた。
次に、研究グループはその中で気管切開の使用状況について2次解析を実施。その結果、気管切開は、急性呼吸窮迫症候群でICUに運ばれた患者の13%に行われ、そのうちの7割は入院後1週間以降(中央値は2週間前後)に行われていた。さらに、適応や重症度調整をしたところ、気管切開を行うと短期(28日)の死亡率に改善が見られたものの、長期(60日、90日)の死亡率に統計学的有意差は認められなかった。これらの結果から、気管切開を実施した場合と実施しなかった場合で、患者の生命予後に差がないことが明らかになったとしている。
気管切開は蘇生もしくは対症療法で、根本治療ではなく、気管切開を行うことで短期の救命、延命は出来ていたものの、生命予後は変わらないことが今回の研究データから裏付けられた。研究グループは、「現在の急性呼吸窮迫症候群患者と気管切開との関係性に関する調査をさらに進め、今後は、必要な人と必要でない人とのタイミングを見極める因子と基準等の適切な気管切開のガイドラインの策定をしていく予定」と述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース