診断や早期発見に役立つ客観的な指標が存在しないうつ病
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は9月7日、うつ病やストレス脆弱性にリボソーム遺伝子RPL17とRPL34が関与し、血液中の遺伝子発現量が診断マーカーとなることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター神経研究所疾病研究第三部の功刀浩部長、精神保健研究所行動医学研究部の堀弘明室長と、株式会社DNAチップ研究所の中村誠二研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、科学雑誌「Journal of Psychiatric Research」にオンライン掲載された。
画像はリリースより
うつ病の原因や客観的診断マーカーを検討する研究は数多く行われているが、診断や早期発見に役立つ客観的な指標は存在していない。現在、遺伝的な要因を含め、もともとストレス脆弱性を持つ人が、過剰なストレスにさらされることで発症に至るという考え方が広く受け入れられている。
このような遺伝子と環境の相互作用の全体像は遺伝子発現のプロフィールにスナップショットとして現れるため、遺伝子発現を網羅的に調べることで、うつ病の原因をより良く理解し、診断の手掛かりになる指標が得られる可能性がある。しかし、うつ病を対象とした網羅的遺伝子発現研究はこれまでにいくつか報告されているものの、その結果は再現性が乏しく、共通の見解が得られていない。
大うつ病性障害でRPL17とRPL34の発現亢進が顕著
研究グループは、まず一般成人を対象に、ストレス脆弱性に関連して変化する血液中の遺伝子発現のプロフィールを網羅的に調査し、リボソーム遺伝子発現をうつ病患者と健常対照者で比較した。その結果、RPL17、RPL34、RPL36ALについて、うつ病患者で有意な発現上昇がみられた。
さらに、うつ病を大うつ病性障害と双極性障害のうつ状態に区別し、統合失調症患者も対象にRPL17とRPL34の発現を検討。その結果、とくに大うつ病性障害でRPL17とRPL34の発現亢進が顕著であることが明らかになり、リボソーム遺伝子がストレス脆弱性およびうつ病のバイオマーカーになる可能性が示唆されたという。
今回の研究の特色は、多面的な心理特性のプロフィールを調べることでストレス脆弱性を有する一群を見つけ出し、うつ病患者と併せて検討することで、健康な状態からうつ病へと至るプロセスを連続的に捉えている点にある。リボソーム遺伝子がストレス脆弱性およびうつ病に共通に関与すると示唆されたことで、うつ病の早期発見や診断に役立つ手法の創出、新たな治療法開発の手がかりとなることが期待されるとしている。
また、リボソーム遺伝子発現は、少量の血液から比較的簡便に調べることができるため、実用化の点でも有利だと考えられる。今後は、今回の知見の実用化を進めるとともに、リボソーム遺伝子の発現が治療の進展とともにどのように変化するのか、また、これらの遺伝子がどのようなメカニズムでうつ病の発症や慢性化に関与するのか、などについても検討を続けていきたいとしている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース