視細胞の情報伝達部位を形成するCAST/ELKS
山梨大学は9月6日、シナプスタンパク質「CAST/ELKS」が網膜視細胞の神経伝達部位の構築や維持に重要な役割を担っていることを明らかにする研究結果を発表した。この研究は、同大医学部・生化学講座第一教室の大塚稔久教授、萩原明講師らの研究グループと、久留米大学医学部薬理学講座および同解剖学講座、独マックスプランク研究所、新潟大学・脳研究所らとの共同研究によるもの。研究成果は、米科学雑誌「Journal of Cell Biology」オンライン版にて公開された。
画像はリリースより
視覚機能を担う網膜では、入力した光信号は視細胞によって神経情報へと変換され、その情報は双極細胞を経て、神経節細胞(視神経)により脳へと伝達される。この視細胞の情報伝達部位は、リボンシナプスと呼ばれる特殊な構造を有し、膨大な光情報を双極細胞や水平細胞へと効率よく伝達すると考えられているが、その詳細は十分にわかっていなかった。そこで研究グループは、この伝達部位を形成し、伝達物質の放出を調節する因子のひとつとしてCAST/ELKSに着目し、研究を実施した。
後天的にELKSを欠損、視細胞とシナプスが損傷
研究グループは、CAST/ELKSを網膜において欠損させたマウスを作製し、解析を実施。その結果、視機能が顕著に低下することを見出した。そこで、これら欠損マウスの網膜を最先端の顕微鏡技術として収束イオンビーム・走査型電子顕微鏡法(FIB-SEM法)を駆使して観察。CAST/ELKSがシナプスの形成や局在に関与し、またそれらが視機能と密接に関連していることが判明。さらに、成熟したマウスの網膜において後天的にELKSを欠損させたところ、光センサーである視細胞ならびにそのシナプスが損傷することもわかったとしている。
今回の研究では、網膜におけるCAST/ELKS欠損マウスの諸症状は、網膜変性疾患の病態に酷似した点が多くみられた。今後さらにメカニズムを詳細に解析していくことで、未だ発症や進行のメカニズムが解明されていない網膜変性疾患の新しい治療ターゲットへの応用が期待される、と研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース