妊娠中・産後1年未満に死亡した女性のデータ357例より
国立成育医療センターは9月5日、人口動態統計のデータベースに、レコードリンケージの手法を適用し、妊娠中・産後1年未満の女性の死亡に関して検討を加え、その結果を発表した。この研究は、同センターの森臨太郎部長らの研究グループによるもの。
研究グループは、2015年1月1日~2016年12月31日の死亡票・死亡個票データベースを突合して65,442件の12~60歳女性の死亡データを作成。これらの死亡データのうち、2014年1月1日~2016年12月31日の出生・死産データと連結される症例(産後1年未満の死亡)、単一死因分類により妊産婦死亡とされていた症例、妊娠関連語句が死因の記載に含まれた症例を抽出することにより、妊娠中および産後1年未満に死亡した女性のデータを作成した。
これら全357例について、2人の産婦人科専門医が独立して、死亡診断書に記載されている事項に、リンケージで明らかになった出産・死産の情報を加味して、英国で用いられている妊産婦死亡に関する死因分類を用いて、死因別に集計した。
仕事をしている者のいない世帯の産褥婦でも自殺率が高く
集計の結果、自殺102例、自殺以外の後期死亡56例、また単一死因分類では妊産婦死亡とされていなかったが死因が妊娠と関連している可能性があるかもしれない症例など、同年(2015~2016)の妊産婦死亡・後発妊産婦死亡の公式統計(74名)には含まれていない死亡例が見つかったという。
一方、氏名や住所地が変更された場合は、死亡票と出生・死産票が突合されないなど、現在の人口動態統計にレコードリンケージ手法を適用して産後1年未満の死亡を同定する方法の限界も認識された。また、同研究で行った死因分類は、死亡診断書に記載されている事項に、リンケージすることによって得られた出産・死産の情報を加味して死因を推測したものであり、詳細な臨床情報にもとづいた場合の判断とは異なる可能性があるとしている。
また、自殺例のうち、生児出産後(死産後は含まない)1年未満の自殺92例を抽出し検討したところ、35歳以上、初産婦、および仕事をしている者のいない世帯の産褥婦において自殺率が高く、産後1年間を通して自殺が見られた。自殺方法に関しては、一般の女性全体と比較して、大きな違いは認められなかったという。
人口動態統計にリンケージ手法を適用する方法は、近年その重要性が認識され始めている、産褥婦自殺例や後期妊産婦死亡例の把握に非常に有用な手段。妊産婦死亡の正確な把握の難しさは諸先進国でも指摘されているが、妊産婦死亡統計には含まれていない産後1年未満の女性の死亡の中にも、妊娠に関連する死亡が存在する可能性が示唆された。
研究グループは、今回の研究は死亡票に含まれている情報のみを用いており、妊産婦死亡予防の具体的な対策に結び付けるには不十分であり、人口動態統計や妊産婦死亡報告事業のような既存の制度やシステムに、その他のデータソースを組み合わせることで、より広く妊産婦に起こっている死亡の現状を把握することが可能となるとしている。また、2017年から、1年未満の妊娠・出産の既往を記載するよう、死亡診断書の記入方法が改正されており、妊産婦の死亡症例の把握率上昇も期待されると述べている。
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・国立成育医療センター プレスリリース