強力な心臓保護作用のあるBNPを分解するネプリライシン
国立循環器病研究センターは9月5日、急性心不全患者のネプリライシン濃度の変化を検証し、入院時と退院時で大きな変化がなかったとする研究結果を発表した。この研究は、国循心不全科の髙濱博幸医師、泉知里部長、創薬オミックス解析センターの南野直人センター長らの研究チームによるもの。研究成果は、欧州心臓学会の学会誌「European Heart Journal」のDiscussion Forumに掲載されている。
画像はリリースより
ナトリウム利尿ペプチドのひとつ「脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)」は強力な心臓保護作用を有し、心不全患者で増加することが知られている。タンパク質分解酵素の一種であるネプリライシンは、このBNPを分解する働きがあり、ネプリライシン阻害剤はBNPの分解を抑制することで心保護作用の強化につながることが期待され、開発が進んでいた。2014年には、ネプリライシン阻害剤とアンギオテンシン受容体拮抗薬の合剤である新薬(ARNI)が心不全患者の長期予後改善に有効であるとの研究発表があり、欧州ではARNIが既に臨床応用されている。しかし、どのような心不全の症例に有効かについては知見が少なく、心不全患者の血中ネプリライシン濃度に注目が集まっている。
2017年には、欧州の研究グループが補助人工心臓装着によりネプリライシン濃度が大幅に減少したと発表。しかし、これは補助人工心臓装着下という大きく血行動態が変化する状況下での研究結果であり、補助人工心臓などを装着しない場合にみられる心不全の回復過程における血中ネプリラシン濃度については、さらに検証が必要な状況だった。
NYHA3-4の急性心不全患者のネプリライシン濃度を計測
そこで研究チームは、NYHA3-4(心不全の重症度分類III~IV度)の急性心不全で入院した患者の入院時と退院時のネプリライシン濃度を計測。その結果、急性期心不全患者では入院時と退院時の血中ネプリライシン濃度に大きな変化はないことが判明した。
今回の研究成果より、急性心不全患者の急性期のネプリライシン濃度は、2017年の報告ほど大きく変化していない可能性が示唆された。心不全患者への効果が報告されたARNIと、阻害標的であるネプリラシンの変動、心不全の病態との関係や測定の意義などについては、不明な点が多く残されている。日本でも近い将来、ARNIの実用化が現実的となると思われるが、ARNIがどのような心不全患者のどのような時期に効果があるのか、今後のさらなる研究の展開が期待される、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース