共通の前駆細胞から分化するヘルパーT細胞とキラーT細胞
理化学研究所は9月5日、T細胞の分化および機能発揮に重要な「Cd4遺伝子」の発現に関する新たな制御機構を発見したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター免疫転写制御研究チームの香城諭上級研究員、谷内一郎チームリーダーらの研究チームによるもの。研究成果は「Nature Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
免疫細胞のひとつであるT細胞は、共通の前駆細胞が胸腺で行われる「ポジティブセレクション」という分化イベントの後に、それぞれが発現するT細胞受容体の性質に応じた細胞系列へ分化・成熟していくことで生み出される。ヘルパーT細胞の分化および機能発揮には、CD4という細胞表面のタンパク質が極めて重要であり、ポジティブセレクション前の未熟な胸腺細胞で発現が開始する。ヘルパーT細胞ではその発現が維持される一方、キラーT細胞では発現が抑制される。
2002年に谷内チームリーダーらは、このヘルパーT細胞特異的なCd4遺伝子の発現制御機構について、キラーT細胞では「Cd4サイレンサー(S4)」というシス転写調節領域が転写因子「Runx」依存的に働き、Cd4遺伝子の発現を抑制することを報告した。これにより、ヘルパー系列特異的なCD4発現は、Cd4サイレンサーによるキラー系列でのCd4遺伝子サイレンシング(遺伝子発現の抑制)により担われることが定説となった。しかし、その後の報告では、ヘルパーT細胞特異的にCd4遺伝子の発現を誘導する未知のシス転写調節領域(成熟エンハンサー)が存在する可能性が示された。
転写因子Runx依存的にCd4遺伝子の発現が制御
今回、研究チームは、成熟したヘルパーT細胞において機能するCd4成熟エンハンサーを同定。Cd4成熟エンハンサーを欠損させたマウスでは、ヘルパーT細胞におけるCd4遺伝子の発現が不安定となり、T細胞の分化異常が認められたという。さらに、この成熟エンハンサーの機能が、ヘルパーT細胞では「オン」、「キラーT細胞」では「オフ」となっている機構について解明を試みた結果、定説とは異なる「Cd4サイレンサー非依存的かつ転写因子Runx依存的に、Cd4遺伝子の発現が制御される」という新たな制御機構を発見した。
T細胞は免疫応答の中心として働く重要な細胞であり、その分化・機能を制御することにより、さまざまな疾患の治療が可能になると考えられている。研究グループは、「本研究の成果によって、またひとつT細胞分化を制御する機構の理解が進んだ。この成果が、人為的T細胞誘導による新たな治療法の開発に貢献することを期待している」と述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース