微小刺激法により尾状核局所回路の機能を調査
京都大学は9月5日、持続的で悲観的な価値判断を引き起こす脳部位を、マカクザルの尾状核で同定と発表した。この研究は、同大白眉センター・霊長類研究所の雨森賢一特定准教授、米マサチューセッツ工科大学の雨森智子リサーチサイエンティスト、AnnM.Graybiel同教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Neuron」にオンライン掲載された。
画像はリリースより
不安、気分、意欲、好き嫌いの価値判断は、すべて脳の中にある神経回路で計算され、行動に対して影響を与えている。こうした情動の情報処理は、大脳辺縁系から大脳基底核に至るまで、広く分散して存在し、つながりのある回路を形成していることがわかってきている。
研究グループは先行研究により、マカクザルの前帯状回皮質の微小電気刺激によって、罰の過大評価が起こることを見い出している。この前帯状回皮質の解剖学的な結合関係から、線条体のストリオソーム構造が、この部位の主な投射先であることがわかっていた。また、対応する脳部位をラットで調べ、ラット前辺縁系皮質からストリオソームに至る経路の選択的な操作を光遺伝学によって行い、線条体ストリオソーム構造が不安の生成に因果的に関わることを突き止めていた。
今回の研究では、このような不安の生成に関わる場所が霊長類の線条体にもあるのか、つながりのある帯状回皮質と線条体に機能の違いはあるのかを、マカクザルの線条体の尾状核を対象に、微小刺激法を用いて尾状核局所回路の機能を調べたという。
持続的な悲観状態と局所電場電位のベータ波振動が相関
研究グループは、マカクザルに葛藤を伴う価値判断を必要とする課題を行い、尾状核を微小な電気で刺激して、局所神経回路の機能を調べた。その結果、ある部位を刺激することにより、サルが罰を過大評価することを突き止めたという。この悲観的な意思決定は、刺激実験終了後も長期にわたり持続することから、持続的な悲観状態が引き起こされることがわかったという。
また、尾状核の刺激は、同じ意思決定を異常に繰り返す現象を誘導することも判明。さらに、刺激実験時に尾状核の神経活動を同時記録し、この持続的な悲観状態と、局所電場電位のベータ波振動が相関することも発見したとしている。
今回の研究から、前帯状回皮質に加えて、尾状核の一部の異常な活動によっても、罰の過大評価が引き起こされることが判明した。この成果について研究グループは、「将来的には、この一連の研究が、ヒトの不安障害やうつ病を操作、あるいは治療のための基盤となることを期待している」と述べている。
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・京都大学 研究成果