根治困難な先天性ネフローゼ症候群
熊本大学は8月27日、先天性腎臓病患者由来のヒトiPS細胞から腎臓組織を誘導することで、先天性ネフローゼ症候群の病態を再現することに成功したと発表した。この研究は、同大発生医学研究所の西中村隆一教授、江良択実教授、仲里仁史教授と、順天堂大学の栗原秀剛准教授、琉球大学の中西浩一教授、広島大学の山本卓教授らと共同で行ったもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
腎臓は血液中の老廃物をろ過して排出する臓器だが、その際に血液中のタンパク質は尿中には漏れないようになっている。これをつかさどるのが糸球体のポドサイトに存在するろ過膜(スリット膜)であり、ネフリンという物質がその主な構成要素だ。このネフリンに遺伝子変異があると、血液中のタンパク質が尿に大量に漏れ、先天性のネフローゼ症候群を呈する。同症は根治的治療が困難であり、ろ過膜を人工的に再現する手法がないことが研究進展のボトルネックになっていた。
1つの変異が病気を起こす原因に
西中村隆一教授らの研究グループは2014年に、ヒトiPS細胞から腎臓組織を試験2管内で誘導することに成功。さらに2016年には、iPS細胞から誘導した糸球体ポドサイトがネフリンを発現していること、誘導の途中にマウスに移植するとポドサイトがより成熟することを証明した。そこで今回、谷川俊祐助教、Mazharul Islam(マジハール イスラム)大学院生らが、これらの方法を先天性腎臓病の患者由来のiPS細胞に応用した。
研究ではまず、ネフリンに1か所だけ変異をもつ先天性ネフローゼ症候群の患者の皮膚からiPS細胞を樹立。そこから試験管内で腎臓組織を誘導したところ、本来糸球体ポドサイトの表面に存在すべきネフリンが細胞内に留まり、ろ過膜の前駆体をほとんど作れないことが判明。誘導の途中でマウスに移植すると、通常はポドサイトの成熟が進み、ネフリンが血管側に移動してくるが、患者由来のものではそれも障害されていた。さらに、患者由来のiPS細胞でネフリン変異を修復してから腎臓組織に誘導したところ、この異常は正常化したことから、この1つの変異が病気を起こす原因であり、この変異を修復すると治療ができる可能性を示したとしている。
小児期のネフローゼだけでなく、成人で腎臓病を発症する場合もタンパク尿で始まることが多く、ろ過膜、つまりネフリンに何らかの障害が生じる可能性が指摘されている。ネフリンの動態を制御する薬がみつかれば、腎臓病に広く効く可能性も出てくることから、研究グループは「ポドサイトに作用してタンパク尿を減らす薬の開発に向けた大きな前進といえる」と述べている。
▼関連リンク
・熊本大学 プレスリリース