皮膚炎や脱毛などさまざまな症状が現れる亜鉛欠乏症
京都大学は8月28日、亜鉛不足が細胞外におけるATP(アデノシン三リン酸)の蓄積、およびATPの分解産物であるアデノシンの減少を引き起こすことを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の神戸大朋准教授、武田貴成博士後期課程学生、東北大学の駒井三千夫教授、山梨大学の川村龍吉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Communications Biology」のオンライン版に掲載された。
画像はリリースより
亜鉛は体内に約2g含まれる必須ミネラル。体内で亜鉛が不足すると、皮膚炎や脱毛、味覚障害や下痢など、さまざまな症状(亜鉛欠乏症)が起こるが、そのメカニズムに関しては、よくわかっていなかった。
亜鉛と細胞外ATP代謝、亜鉛要求性酵素を介して密接に関連
今回の研究では、亜鉛欠乏症による症状と細胞外ATP代謝の破綻による症状には共通点が多いことと、細胞外ATP代謝で機能するENPP、CD73、ALPといった分解酵素の多くが亜鉛要求性酵素であることに着目。研究グループは、亜鉛の欠乏がこれらの酵素活性を低下させることにより細胞外ATP代謝が弱まり、これが亜鉛欠乏症の症状に関連しているのではないかと考えた。
研究グループは、培養細胞とラットを用いて、通常の場合と亜鉛欠乏の場合とで、ENPP、CD73、ALPの各酵素活性、また細胞外ATP代謝がどのように変化するのか比較。その結果、培養細胞の膜画分、ラットの血漿において、亜鉛欠乏では各酵素活性が低下し、細胞外ATP代謝が遅延していることが明らかとなった。つまり、亜鉛欠乏状態では細胞外ATP分解活性が低下し、これに伴ってアデノシンの産生が低下することを直接的に示すことに成功したという。また、ラットにおける各酵素活性の低下や細胞外ATP代謝の遅延は、数日の亜鉛欠乏食の摂取で生じており、この低下した活性は一日の亜鉛十分食の摂取で劇的に回復する、非常に鋭敏な応答だったとしている。
この結果は、亜鉛と細胞外ATP代謝が、亜鉛要求性酵素の機能を介して密接に関連することを示しており、 亜鉛欠乏症では細胞外ATP代謝が破綻することが引き金となって多様な症状を引き起こしていることを強く示唆しているという。
今回の研究結果により、亜鉛の細胞外ATP代謝への影響を明らかにできたため、今後は、実際の多様な亜鉛欠乏症の症状において、両者がどのように関連しているのか詳しく検証していくことが必要だとしている。また、この研究成果が端緒となり、細胞外ATP代謝における亜鉛の機能についての知見がさらに解明されていくことが期待される、と研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果