進行的に筋肉の変性や筋力低下をもたらすFSHD
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は8月27日、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)患者由来iPS細胞から作製した骨格筋細胞を用いて、酸化ストレスがFSHDの原因遺伝子「DUX4」の発現を増加させていることを明らかにしたと発表した。この研究は、CiRA臨床応用研究部門の本田充大学院生(東京大学大学院理学系研究科より学外研究)、および櫻井英俊准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Human Molecular Genetics」に掲載されている。
画像はリリースより
FSHDは進行的に筋肉の変性やそれに伴う筋力低下をもたらす遺伝性の疾患。2種類のタイプがあり、「FSHD1」は第4番染色体のテロメア(4q35)のゲノム配列(D4Z4)の反復の短縮(10復以下)を起因とし、「FSHD2」はFSHD1以外の複合因子を起因とする。健常のD4Z4反復配列では、DNAが高度にメチル化されているが、FSHD1やFSHD2では、それぞれのゲノム異常によってDNA低メチル化を伴うクロマチン構造の変化が起こり、DUX4の転写が活性化される。
これまでの臨床研究や遺伝学研究により、このDUX4の発現がFSHDの原因であると考えられているが、細胞内のクロマチン構造の変化のみならず、細胞外の要因によりDUX4の発現が促進されるのかは、わかっていなかった。
DUX4の増加過程にDNA損傷応答シグナルが介在
研究グループは、疾患特異的iPS細胞からFSHDの骨格筋細胞を作製し、FSHDの骨格筋細胞ではDUX4の発現量が多いことを確かめた。さらに、酸化ストレスがDUX4を増加させていることを明らかにし、ゲノム編集により酸化ストレス状況下においてDUX4増加を抑えることに成功。酸化ストレスがDUX4を増加させる過程で、DNA損傷応答シグナルが介在していることを突き止めたという。
これらの結果は、過運動、筋損傷や炎症などがもたらす酸化ストレスが、FSHDの進行を促進させる外的リスクファクターのひとつであることを示唆している。今回の研究で用いた、疾患特異的iPS細胞を用いたFSHDモデルは今後、さらなるFSHD疾患に対する創薬開発などの研究において有用であると考えられる、と研究グループは述べている。
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