入院日数増加や死亡につながる術後肺炎
東京大学は8月24日、歯科医による手術前口腔ケアが、がん患者の術後肺炎発症率や死亡率を減少させることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科公共健康医学専攻臨床疫学・経済学の康永秀生教授らの研究グループによるもの。研究成果は「British Journal of Surgery」オンライン版に掲載された。
一般的に、がん手術直後は患者の体力が低下し、一時的に肺炎などにかかりやすくなる。術後肺炎の発症率は2.6~3.5%ほどであり、重症化すると死亡率が増加し、入院日数が伸びることが、過去の研究で報告されている。
肺炎の発症原因のひとつに、口腔内や咽頭に常在する細菌を含む唾液を気管内に誤嚥してしまうことがあげられる。歯科医が手術前に口腔ケアを実施することで口腔内を清潔に保ち、唾液中の細菌量を減らすことで術後肺炎の発症を低減できる可能性が、理論的には示唆されてきたが、大規模な臨床データを用いてその効果を実証した研究は、これまでなかった。
発症率が3.8%から3.3%に低下、食道がんではさらに低下
今回、研究グループは、厚生労働省のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、東京大学構内に設置されているオンサイトリサーチセンターで解析を実施。研究の対象は、2012年5月~2015年12月に頭頸部がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肺がん、肝臓がんの腫瘍切除・腫瘍摘出術を受けた患者。解析対象となる患者50万9,179人のうち、8万1,632人(16.0%)が歯科医による術前口腔ケアを受けていた。曝露要因は、手術前の歯科医による口腔ケア、アウトカムは術後肺炎および死亡とした。
解析の結果、歯科医による術前口腔ケアを受けなかった患者群と比較して、歯科医による術前口腔ケアを受けた患者群では、術後肺炎の発症率が3.8%から3.3%に低下し(リスク差:-0.48%、95%信頼区間:-0.62–-0.32)、手術後30日以内の死亡率は0.42%から0.30%に低下していた(リスク差:-.12%、95%信頼区間:-0.17–-0.07)。また、がんの部位別に層別解析を行った結果、とくに食道がんの患者で効果が大きいことが判明したという(術後肺炎リスク差:-2.44%、95%信頼区間:-3.79–-1.11、手術後30日以内死亡リスク差:-0.36%、95%信頼区間:-0.71–-0.01)。
これらの研究成果は、実際の医療現場における歯科医による術前口腔ケアの有用性について、医療従事者・患者の双方にとって重要な情報のひとつとなることが期待される、と研究グループは述べている。
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・東京大学大学院 医学系研究科・医学部 プレスリリース