「おそらく発がん性がある物質」とされるアクリルアミド
国立がん研究センターは8月24日、発がん性が指摘されているアクリルアミドの摂取量と子宮体がん・卵巣がん罹患との間には関連がなかったとする研究報告を発表した。この研究は、多目的コホート研究(JPHC Study)に基づくもの。JPHC Studyは、「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」において、全国11保健所と国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などと共同で行われている。
画像はリリースより
アクリルアミドは、紙の強度を高める紙力増強剤や接着剤などの原材料として利用されている化学物質。国際がん研究機関(IARC)では、ヒトに対して、「おそらく発がん性がある物質」とされている。欧米における複数の疫学研究をまとめたメタアナリシスでは、アクリルアミド摂取は非喫煙女性において、子宮体がん・卵巣がんのリスクをわずかに増加させることが報告されている。
近年、アスパラギンと還元糖を含む食品を120℃以上の高温条件下で加工・調理すると、化学反応を起こすことなどによってアクリルアミドが生成され、食品中にも含まれていることが判明。過去に行われた疫学研究や動物実験の結果を総合的にみて、日本人における食事からのアクリルアミド摂取による発がん性については、懸念がないとはいえないことから、国内での研究が求められていた。
アクリルアミドの摂取源の違いも影響か
今回の研究では、1990年と1993年に、全国10保健所管内に居住していた40~69歳のうち、研究開始から5年後に行った食事調査票に回答し、子宮体がん・卵巣がんになっていなかった女性約4万7,000人を、2013年まで追跡。その調査結果に基づき、アクリルアミド摂取量と子宮体がん・卵巣がん罹患との関連を調べた。
アクリルアミドの摂取量は、食物摂取頻度調査票(FFQ)というアンケートを用いて、各個人の習慣的な摂取量を推定した。追跡調査中に、計161人の子宮体がん罹患および122人の卵巣がん罹患を確認。5年後調査時のアンケートの回答から計算したアクリルアミド摂取量について、対象者を低、中、高の3つのグループに分けて、その後の子宮体がん・卵巣がん罹患を比較した。
アクリルアミド摂取量が「低」のグループを基準とし、それ以外のグループの子宮体がんリスクを比較した結果、5年後調査開始時のアクリルアミド摂取量が多いほど子宮体がん罹患リスクが下がるという関連がみられた。同研究の対象集団では、コーヒーがアクリルアミド総摂取量の24%を占める主要な摂取源であり、また、コーヒーが子宮体がんのリスクを下げることが多くの疫学研究から報告されている。そこで、コーヒー摂取量の影響を統計学的にのぞいたところ、その関連はみられなくなったという。
卵巣がんでは、5年後調査開始時のアクリルアミド摂取量との間に統計学的有意な関連はみられなかった。さらに、アクリルアミドの代謝や子宮体がん・卵巣がん罹患に関わる喫煙習慣、コーヒー摂取量、アルコール摂取量、体格、閉経状態といった要因によって細かく分けて調べた結果、アクリルアミド摂取量と子宮体がん・卵巣がん罹患との間に統計学的有意な関連はみられなかった。また、アクリルアミド摂取量とがん罹患の関連には、アクリルアミドの摂取源の違いも結果に影響を与えることがわかったとしている。
今回の研究結果からは、欧米に比べて相対的にアクリルアミド摂取量の少ない日本人においては、子宮体がん・卵巣がん罹患との関連がなかったことが示された。今後はアクリルアミドだけでなく、毒性の強いグリシドアミドなどの代謝物の影響も明らかにするために血液中のバイオマーカーを用いたさらなる検討を行う必要がある、と研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース