重なりが見出されている精神疾患と精神的個性の遺伝的背景
東北大学は8月21日、人間がもつ多様な「こころの個性(精神的個性)」に関わる遺伝子を特定する研究結果を発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の佐藤大気(博士後期課程学生)と河田雅圭教授によるもの。研究結果は「Evolution Letters」に掲載されている。
画像はリリースより
精神疾患は遺伝率が高く、しばしば生物学的な適応度(生存や繁殖)に大きな影響を与える可能性がある。その一方で、精神疾患という表現型は、ヒトが持つ「個性」の一部として捉えることもできる。実際に、近年行われた多くの研究では、精神疾患と精神的個性の遺伝的背景には、かなりの重なりがあることが見出されている。
過去の理論研究は、これら個性にかかわる遺伝的変異は積極的に維持されうると提唱しているが、実際に精神疾患および精神的個性に関わる遺伝的変異が、自然選択によって積極的に維持されていることを明確に示す証拠は、これまで報告されていなかった。
SLC18A1遺伝子がヒトの精神機能に影響
今回の研究では、精神疾患の関連遺伝子に着目。哺乳類15種のゲノム配列を用いて、人類の進化過程で加速的に進化した精神疾患関連遺伝子588個の進化速度を推定した。また、約2,500人分の現代人の遺伝的多型データを用いて、集団中で積極的に維持されている遺伝的変異の特定を試みたという。
その結果、3つの遺伝子(CLSTN2、FAT1、SLC18A1)が人類の進化過程で自然選択を受け、加速的に進化してきたことが判明。なかでも、人類の進化過程で自然選択によって有利に進化してきたSLC18A1遺伝子が、ヒトの精神機能に影響を与え、「こころの個性」に関わる遺伝子であることが見出されたという。さらに、ヒトの集団内で、この遺伝子は遺伝的多様性をもち、自然選択によって異なる遺伝子型が、集団中に積極的に維持されていることが示されたという。
今回の研究成果は、ヒトのこころの多様性が進化的に積極的に保たれている可能性を進化遺伝学的手法により初めて示したもの。研究グループは、「本研究の進化学的な知見は、個性や精神・神経疾患の生物学的意義や治療の方向性について示唆を与えると期待される」と述べている。
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