■世界に日本の技術発信も
採算性から製薬企業の支援が得られにくい小児用医薬品の剤形開発をめぐる現状を打開するため、日本のアカデミアが国際連携に乗り出す。欧州で小児用剤形の開発に取り組むコンソーシアム「EuPFI」と連携するため、国内の製剤研究者で構成する製剤機械技術学会に準備委員会を立ち上げ、日本側の窓口と位置づける構想だ。EuPFIが効率化を目指す五つの優先課題に対し、日本薬剤学会、日本医薬品添加剤協会など関連する他団体にワーキンググループを設置。年齢に適した製剤設計、味の評価方法、苦みマスキング等の問題解決を目指す。これまで小児用剤形の開発は大きな進展が見られなかったが、国際連携を足がかりに課題解決を前進させたい考えだ。
小児用医薬品については、未だに約7割が添付文書に用法・用量、安全性等の記載がなく、投与する剤形も十分に開発されていないのが現状。こうした中、薬剤学の研究者で構成する日本薬剤学会では、個別化製剤フォーカスグループ(FG)を立ち上げ、治療上の見捨てられた孤児と言われる患児を救うため、子供が感じる薬の苦みや飲みにくさなどを解決する小児製剤の技術開発に向けた議論を重ねてきた。
ただ、新剤形を開発するにも小児を対象とした治験の高いハードルが立ちはだかり、アカデミアでの活動は停滞していた。
一方、欧州では、2007年から小児薬の開発計画の提出が義務化され、これに呼応するようにEuPFIの活動がスタート。リバプール大学などのアカデミアをはじめ、ノバルティス、ロシュ、サノフィ、グラクソ・スミスクライン(GSK)などグローバル大手製薬企業、慈善団体のビル&メリンダ・ゲイツ財団、米国のUSPFI、さらに欧州医薬品庁(EMA)もオブザーバー参加し、それぞれの立場を超えて子供たちのための問題を解決しようと、▽投与デバイス▽年齢に適した製剤設計▽味の評価方法と苦みマスキング▽医薬品添加剤▽調剤・生物学的製剤――の五つの優先課題に取り組んでいる。これらの技術を国際調和することで、より効率的な剤形開発につなげることを目指している。
こうした中、日本にも参画を求める動きがあったことから、製剤機械技術学会に準備委員会を立ち上げる構想が進んでいる。国際委員会が中心となってEuPFIとの学術的な窓口役を務め、EuPFIの五つの優先課題に対応するため、さらに日本薬剤学会、日本医薬品添加剤協会など関連他団体にワーキンググループを設置する予定だ。
たとえば、味の評価とマスキングについては薬剤学会が研究開発を担当するなど、役割分担しながらEuPFIと情報交換を進めていきたい考えである。
製剤機械技術学会の国際委員、薬剤学会の個別化製剤FGリーダーで、今回の動きに中心的に関わる昭和大学薬学部薬剤学の原田努准教授は、「欧米の子供たちが飲みやすい薬を日本に導入しても受け入れられない。最初から日本でも受け入れられる製剤を考慮する必要があるし、逆に日本の丸剤、顆粒剤、細粒剤といった良い製剤を積極的に世界に発信し、世界の子供たちが最も飲みやすく、医薬品にアクセスできる状況を作っていかなければならない」と話している。
これまで日本でも産学連携は試みられたものの、高い壁に跳ね返されていた。そこに浮上した国際連携の動きは、国際標準の技術をもとにした効率的な剤形開発につながる可能性がある。まだ具体的な活動はこれからだが、製剤機械技術学会が立ち上げる準備委員会を足がかりに、将来的には規制当局や医療現場などとも連携して、小児用剤形の開発を促す「日本版PFI」の設立も視野に入ってきそうだ。