ゲノム網羅的に遺伝子変異を検出・解析
国立がん研究センターは8月21日、肺サーファクタントシステム遺伝子群が間質性肺炎合併肺腺がんに特徴的な遺伝子変異であり、その変異を有する群は生命予後が不良であることをつきとめたと発表した。この研究は、同センター研究所ゲノム生物学研究分野の河野隆志分野長らが、東京医科歯科大学、関西医科大学、慶應義塾大学医学部と共同で行ったもの。研究成果は、米臨床腫瘍学会機関誌「Journal of Clinical Oncology Precision Medicine」で発表された。
間質性肺炎は肺胞構造の破壊と線維化をもたらす病気で、肺がんのリスクを高める重要な因子だ。一般的な肺がんでは、発がんの原因となるドライバー遺伝子が多数同定されており、そのがん遺伝子に対する特異的分子標的薬が奏功することが知られている。しかし、間質性肺炎合併肺がんに特徴的ながん遺伝子異常や発がん機構については明らかではなかった。
研究グループは今回、間質性肺炎合併肺腺がんに注目してゲノム網羅的な遺伝子変異の検出を行い、間質性肺炎合併肺腺がんに特徴的な遺伝子変異の解析を試みた。また、その変異について臨床情報を組み合わせることで遺伝子変異の意義の検討を行ったという。
サーファクタントシステム遺伝子群に変異、予後不良に
研究グループは、東京医科歯科大学と国立がん研究センター中央病院で肺腺がんと診断されて根治的手術を受けた患者から54例の間質性肺炎合併肺腺がんの患者試料を抽出し、既知のドライバー遺伝子異常がどのように分布しているのかについて解析。また、間質性肺炎を有さない一般的肺腺がんの症例637例を比較対象として同様の解析を行った。その結果、がんの原因となるEGFRなどのドライバー遺伝子の分布は間質性肺炎の有無によって大きく異なることが判明したという。一般的肺腺がんでは、約70%にドライバー遺伝子異常を認めたが、間質性肺炎合併肺腺がんでは約25%しか存在せず、これまでの研究では解明されていない発がん経路をたどっていることが判明した。
そこで、間質性肺炎合併肺線がん51例を含む肺腺がん296例の全エクソン解析でゲノム網羅的に遺伝子変異を検出するための解析を行ったところ、肺の発生や臓器としての働きを担うサーファクタントシステム遺伝子(Pulmonary Surfactant System Genes)群の機能を失わせるような変異が、間質性肺炎合併肺腺がんに特徴的なゲノム異常であることがわかった。また、これらの遺伝子に異常がある症例では、腫瘍組織が未成熟な傾向を示し、その生命予後が不良だったという。
画像はリリースより
今回の研究は、過去最大級のサンプル数で、間質性肺炎合併肺腺がんのゲノム網羅的な解析を行った初めての報告となる。研究グループは、「予後の改善のためには、新たな発がん機構の解明と更なる疾患特異的な治療を開発することが重要であり、その基礎的なデータとして本研究は多大なる貢献をすることが期待される」と述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース