急性リンパ性白血病に対して臨床応用が進むCAR-T細胞療法
名古屋大学は8月20日、人工的に遺伝子を導入した細胞(遺伝子改変細胞)の安全性を評価する新たな方法を開発し、これを用いてCD19キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)の安全性を検討、その結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科小児科学の髙橋義行教授、村松秀城講師、濱田太立大学院生、同大医学部附属病院先端医療開発部先端医療・臨床研究支援センターの奥野友介特任講師、西尾信博特任講師、信州大学医学部小児科学教室の中沢洋三教授らの研究グループによるもの。研究成果は「EBioMedicine」に掲載されている。
急性リンパ性白血病(ALL)に対して、人工的に遺伝子を組み込んだCAR-T細胞療法の臨床応用が進み、再発・難治性のALLに対する有効性が海外から報告されている。CAR-T細胞療法は、体外で患者のT細胞にCAR遺伝子を導入することで、T細胞が白血病細胞を集中的に攻撃するようにして患者の体内に戻す新規の治療法だ。
海外では、レトロウイルスやレンチウイルスといったウイルスを用いた方法でCAR-T細胞が作成されているが、同院小児科では、製造コストや安全面を考慮してウイルスを用いず、酵素を利用したpiggyBacトランスポゾン法でのCAR-T細胞を開発している。一方、遺伝子改変細胞は、遺伝子が組み込まれる場所によって、その細胞自体が白血病化する危険性がある。このため、細胞の白血病化に繋がり得る場所に遺伝子が組み込まれていないか、遺伝子の挿入部位を確認して、その安全性を評価することが必要となる。
既存の方法よりも短時間で正確にCAR-T細胞の安全性を評価
今回研究グループは、CAR-T細胞の遺伝子挿入部位を解析する新たな方法(tag-PCR法)を開発。tag-PCR法を用いて、ウイルスを用いて作成したCAR-T細胞と、piggyBacトランスポゾン法で作成したCAR-T細胞の安全性を評価した。その結果、tag-PCR法では、既存の方法よりも短時間で正確にCAR-T細胞の安全性を評価することができることが明らかになった。
画像はリリースより
また、tag-PCR法での解析により、piggyBacトランスポゾン法で作成したCAR-T細胞では、細胞の白血病化のリスクとなり得る場所への遺伝子挿入頻度が、ウイルスを用いて作成したCAR-T細胞以下であることがわかったとしている。
今回の結果を受け、研究グループは「piggyBacトランスポゾン法はウイルスベクターよりも安価にCAR-T細胞の製造できる点からも、piggyBacトランスポゾン法で遺伝子導入したCAR-T細胞療法が、今後、臨床応用されることが期待できる」と述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース