自閉スペクトラム症児と健常児の運動実行で起こる脳活動を調査
金沢大学は8月14日、自閉スペクトラム症児の運動の不器用さに対する特異的な脳活動を可視化することに成功したと発表した。この研究は、同大子どものこころの発達研究センターの菊知充教授と、大阪大学大学院連合小児発達学研究科金沢校の大学院生アンキョンミン氏、医薬保健研究域医学系の三邉義雄教授らによるもの。研究成果は、米科学雑誌「The Journal of Neuroscience」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
健常な大人が運動を実行する時、脳の運動野から、知覚や意識に関連して出現する振動パターンである「ガンマ波」が出現することが知られているが、これまでこのガンマ波は、脳神経の興奮と抑制のバランスに非常に関係があると考えられていた。今回の研究では、5~7歳の自閉スペクトラム症児14名、健常児15名を対象に視覚的ターゲットに対してボタンを押してもらい、運動実行によって起こる脳活動を調査した。
楽しみながら脳機能測定、自閉スペクトラム症を86.2%の精度で診断
調査には、産学官連携のプロジェクトで開発した、幼児用脳磁計(Magnetoencephalography:MEG)を活用。幼児用MEGは、超伝導センサー技術(SQUID磁束計)を用いて、脳の微弱磁場を頭皮上から体に全く害のない方法で計測する装置である。幼児用MEGでは超伝導センサーを幼児の頭のサイズに合わせ、頭全体をカバーするように配置することで、高感度で神経の活動を記録することが可能となる。MEGは放射線を用いたりせず、狭い空間に入る必要がないことから、幼児期の脳機能検査として存在意義が高まっていた。
今回この幼児用MEGを用いて、幼児でも楽しくボタンを押せるようなゲームを作成し、ボタンを押す時の脳活動を調べて比較するという実験を行った。その結果、自閉スペクトラム症児は健常児に比べて運動実行の反応時間が160ms遅いとともに、ガンマ波の周波数が平均7Hz低く、パワー(出現量)が平均72.1%小さいことを発見したという。さらに、運動の反応時間と大脳生理的なガンマ波の特徴を利用すると、自閉スペクトラム症を86.2%の精度で診断できることも発見したという。
今回の研究成果により、自閉スペクトラム症児はボタン押し実行中に、行動的だけでなく、大脳生理学的に違いがあることが示された。これにより、非侵襲的なMEGを用いて、多様な自閉スペクトラム症の一側面を、幼児期から客観的に見ることが可能になったといえる。
自閉スペクトラム症児は、将来的な社会適応に、早期からの理解とサポートが大切だ。同研究は、診断が大事な就学前後の時期に、負担なく楽しみながら脳機能を測定し、診断できる可能性を示したものとして、今後の活用に期待が寄せられる。
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