二次無効例が多く、薬剤が飽和状態にある「乾癬治療」
京都大学は8月16日、皮膚の表面にあるTRAF6という細胞内シグナル伝達物質が、乾癬の発症や持続に必須であることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科皮膚科学の松本玲子博士過程学生(研究当時)、同大日輝記講師らの研究グループによるもの。研究成果は「JCI Insight」に掲載されている。
画像はリリースより
乾癬は、全身のあちこちの皮膚が赤くなって平たく盛り上がり、表面に銀白色の乾いた角質が分厚く積み重なってポロポロとはがれ落ちる慢性の皮膚疾患。国内の有病率は0.2~0.5%で、欧米の有病率はさらにその5~10倍にのぼる。近年、抗TNFα抗体を初めとする各種の抗体医薬による治療が効果を上げているが、患者1人当たり年間200~600万円もの高価な薬剤を永続的に投与し続けなければならない点や、高分子に対して抗体が出現するため、数年以内に効かなくなるという「二次無効」が20~30%にのぼることもある点が、臨床的にも社会的にも最大の課題となっている。さらに、乾癬治療の領域では抗体医薬自体がすでに飽和状態にあり、有効かつ安全で安価な新薬が依然として求められ続けている。乾癬では、免疫の異常なはたらきが皮膚の最外層である表皮に作用し、活性化した表皮がさらに免疫の異常なはたらきを促進する、という悪循環の持続が原因であると考えられているが、その決定的な証拠はなかった。
TRAF6欠損マウスは免疫異常の活性化が起こらず、乾癬も発症せず
研究グループは、乾癬で起こる免疫の異常の性質から、表皮でこの悪循環を支配する物質はTRAF6という細胞内シグナル伝達物質と考察。そこで、表皮でこのTRAF6を欠損する動物に、実験的に乾癬の発症の誘導を試みた。その結果、野生型のマウスでは乾癬に特徴的な免疫の異常な活性化が起こり乾癬を発症したのに対して、表皮でTRAF6を欠損するマウスでは、乾癬に特徴的な免疫の異常な活性化が起こらず、乾癬を全く発症しなかった。さらにこのマウスに、IL-23を皮膚に注射することで乾癬に特徴的な免疫の異常を直接誘導しても、表皮の活性化が起こらず、やはり乾癬の発症は抑制された。以上のことから、表皮の働きが、乾癬にみられる免疫の異常な活性化に必須の役割を持つこと、表皮のTRAF6が乾癬の発症にも、また異常な免疫の活性化の悪循環による乾癬の持続にも必須の物質であることが明らかとなった。
今回の研究成果から、免疫の異常により産生される物質ではなく、その上流で免疫を調節する皮膚の働きが新しい治療の標的となりうること、さらにTRAF6が、抗体医薬にかわる新しい治療の標的となり、抗体医薬による治療のさまざまな課題を解決する可能性があることが示された。現在、研究グループは、京都大学の研究者および国内の製薬会社との共同研究で、TRAF6を標的とする新しい治療薬の開発に取り組んでいるという。
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・京都大学 研究成果