■国内初、死の谷克服目指す
筑波大学は、アカデミア発新薬等のシーズを技術移転し、起業につなげるための実践的な人材育成プログラム「リサーチスタジオ」を始動させた。橋渡し研究から生まれた医薬品、医療機器などのシーズをもとに、大学が海外へのビジネス展開を意識した起業チームを支援する医療アントプレナー(起業家)の育成に乗り出す。多くの成果を出している米スタンフォード大学のプログラムと連携し、10月から2カ月半の日程で開催し、世界で通用するビジネスモデルを構築できる起業家を育てたい考え。大学による起業支援プログラムの提供は国内で初めてとなる。つくば臨床医学研究開発機構の荒川義弘機構長は「アカデミア発のシーズに付加価値を付け、グローバル展開できるビジネスモデルの構築を支援し、研究者のマインドセットも変えていきたい」と意気込みを語っている。
同プログラムは、日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け、慶應義塾大学医学部と共に実施するもの。医薬品の技術移転と起業支援に10年以上の歴史がある米スタンフォード大学の「SPARK」プログラムと連携し、起業に意欲のある人を対象に実施する。
新薬創出数で圧倒的トップの米国では、その半数がアカデミア、ベンチャー発となっているが、背景には発明したらすぐベンチャーを起業する文化と豊富な投資資金の存在が指摘されている。また、グローバル展開が必須な新薬の開発では、臨床開発、薬事、保険償還などの専門家の関与と巨額資金が必要になるものの、日本では海外市場を意識したアントプレナーが不足しており、体系的な人材育成が急務となっていた。
こうした中、筑波大は慶應大と共に橋渡し研究から生まれた医薬品、医療機器などのシーズについて、海外展開を視野に入れたビジネスモデルを構築する実践的プログラムを開始した。大学が臨床開発からビジネスモデルの構築まで起業チームを支援し、当初から起業を意識したアカデミア発のシーズ開発を目指す。
プログラムの前半では新薬開発の初期段階から目的とする最終製品像を明確にしておくプロファイルの策定、後半ではビジネスモデルの構築と起業家が投資家に向けてショートプレゼンテーションを行うピッチ発表の練習が中心となる。
具体的には、まず3日間のブートキャンプ(集中講義)でアントレプレナーに必要な開発戦略、知財戦略などの講義を受講後、週1回のメンタリング・グループワークを中心に最終製品像のプロファイル、ビジネスモデルを筑波大の経験豊富なメンターと講師の支援を受けながら構築していく。
プログラムの中間、最終には英語で発表するピッチ会を開催。スタンフォード大学をはじめ海外からのメンターも参加し、海外展開を視野に入れたアドバイスをもらえるだけでなく、グローバルなプレゼン力を養える実践的な内容となっている。参加費は無料で、今年度は9月13日を締め切りに5チーム25人程度を募集している。優秀な起業チームは、米カリフォルニア大学サンディエゴ校での起業訓練プログラムに参加するための費用補助を受けることができる。
これまで日本では、アントレプレナー教育はほとんど行われておらず、大学が中心となった人材育成プログラムは初の試みとなる。米国ではベンチャー企業への投資額が日本の約10倍と圧倒的な現状がある中、日本発のシーズを海外展開できる水準まで磨き上げ、豊富な資金援助を得て起業を支援したい考えだ。
荒川氏は、「ある程度の段階までシーズを育てたら、一気にグローバルで最適な環境で開発していくことが必要。海外市場を十分に念頭に置き、ビジネスモデルを作ることが大きなポイントになる。スタンフォード大学などアメリカの大学とも連携し、まず一つでも実績を出していきたい」と話す。