発見の遅れが治療を困難にしている大動脈瘤発症
筑波大学は8月10日、マトリセルラータンパク質トロンボスポンジン1(Thbs1)の抑制が大動脈瘤発症の抑止に効果的であると発表した。この研究は、同大学生存ダイナミクス研究センター(TARA)の柳沢裕美教授、山城義人助教、医学医療系心臓血管外科学・平松祐司教授らと、関西医科大学、米ワシントン大学、カナダ・マクギル大学との国際共同研究グループによるもの。研究成果は「Circulation Research」オンライン版で先行公開された。
画像はリリースより
大動脈瘤は血管壁が異常に拡張し、破裂、死に至る疾患。一般に兆候がなく、瘤は画像診断などで偶然に発見されるため、発見の遅れが治療を困難にしているとされる。また、現在の大動脈瘤治療は人工血管置換やステントグラフト挿入といった外科手術を基本としているため、体力的な負担や、いつ破裂するかわからない瘤を抱えて生活する心的負担が問題となっていた。そのため、大動脈瘤の分子メカニズムを明らかにし、治療標的になりうる分子を特定する事が最重要課題であると考えられている。
Thbs1は胸部大動脈瘤患者の血管壁においても発現上昇
今回研究グループは、上行大動脈瘤マウスモデルを用いて、大動脈瘤発症の初期にThbs1が発現亢進していることを確認。血管平滑筋細胞において、周期的な伸展刺激やアンギオテンシンIIによってThbs1の発現が誘導されること、この発現誘導はメカニカルストレス応答転写因子「Early growth response1(Egr1)」を介していることを明らかにした。さらに、Thbs1の抑制が大動脈瘤発症の抑止に効果的であること、Thbs1が胸部大動脈瘤患者の血管壁においても発現上昇していることを明らかにしたという。
この発見は、血管壁のメカニカルストレスに応答するシグナル伝達経路を特定した点で画期的であり、大動脈瘤発症の新たな分子メカニズムと、Thbs1を標的とした新しい治療法開発へと繋がる知見として、これからの研究に期待が寄せられる。今後について、研究グループは、「臨床的応用にあたり、大動脈瘤形成を促進するThbs1に対する阻害剤の開発や、Thbs1の新たな受容体探索、血管弾性線維形成との関わり、血管平滑筋細胞と内皮細胞の相互作用にどのようにThbs1が関与するのかなどを明らかにし、血管壁を維持する機構の理解を深めていくことが重要となる」と述べている。
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・筑波大学 プレスリリース