薬物療法や放射線療法への治療抵抗性を示すがん幹細胞
大阪大学は8月9日、PEG-ポリアミノ酸ブロックコポリマーとウベニメクスを用いた新たなドラッグ・デリバリー・システム(DDS)を構築し、肝臓がん幹細胞の標的化を実現したと発表した。これは、同大大学院医学系研究科の俊山礼志大学院生(卒業生)、今野雅允寄附講座講師、石井秀始特任教授、江口英利准教授、森正樹教授、土岐祐一郎教授らの研究グループと、東京工業大学の西山伸宏教授らとの協働研究によるもの。研究成果は、英科学誌「Oncogene」に公開された。
画像はリリースより
がん組織の細胞には、大きく分けて2つの細胞(がん細胞とがん幹細胞)がある。がん幹細胞は、がんの悪性化や転移に関わることから、がんを治すためにはこのがん幹細胞を根絶させることが重要とされる。しかし、がん幹細胞は、薬物療法や放射線療法へ治療抵抗性を示すことから、これががん難治性の原因であることが知られていた。
研究グループはこれまでに、肝臓がん幹細胞にCD13という表面マーカーが存在することを発見。この肝臓がん幹細胞にCD13の阻害剤であるウベニメクスを添加すると、がん幹細胞がアポトーシスを起こし、死滅する。しかし、がん幹細胞は腫瘍組織の一部にしか存在しないために、ピンポイントで高濃度に標的化できるデリバリーの方法の開発が急務とされている。
既存の抗がん剤との併用で、抗腫瘍効果が増強
同研究グループは今回、PEG-ポリアミノ酸ブロックコポリマーとウベニメクスを用いたDDSを構築。このDDSを用いることによって、がん幹細胞におけるウベニメクスの濃度を局所的に高めることができるようになったという。さらに、この技術を応用し、標準的な抗がん剤と併用させることで、がん幹細胞を著しく減少させることに成功したとしている。
今回の研究成果により、がん幹細胞に対する薬効が示されていながらデリバリーに課題があった薬剤のリポジショニングが加速化することが期待される。またDDSの技術として、同研究で用いたブロックコポリマーはその製造が比較的簡便でありながら高度な機能を発揮できるため、他の薬剤への発展的な応用も期待される。
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