次世代再生医療のトピックとして注目されるオルガノイド
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は8月7日、ヒトiPS/ES細胞から3次元の脊髄組織を分化誘導することに成功したと発表した。この研究は、CiRA臨床応用研究部門・京都大学大学院医学研究科脳神経外科学の小倉健紀大学院生、日本学術振興会の坂口秀哉特別研究員PD(京都大学CiRA同部門)、髙橋淳教授(京都大学CiRA同部門)らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Development」でオンライン公開された。
画像はリリースより
近年、多能性幹細胞から目的の細胞に分化誘導する技術が進歩したことにより、3次元での生体と同じような構造を保った組織への分化誘導が可能となってきており、このような組織はオルガノイドと呼ばれている。3次元の構造を保った状態での分化誘導手法は、これまでの比較的単純な条件による分化誘導では達成できなかった複雑な領域の分化誘導を可能とすると考えられ、次世代の再生医療のトピックのひとつとして注目されている。
神経組織では、大脳、神経網膜、海馬、脈絡叢、小脳、視床下部、下垂体などが3次元組織として分化誘導できることが報告されており、例えば大脳の分化誘導は小脳症などの疾患モデリングに応用されることが期待される。しかし、脊髄に関してはこれまで、3次元の組織としての分化誘導が全くなされていなかったため、研究グループはヒトiPS/ES細胞を用いて3次元での脊髄分化誘導を試みた。
分化領域を背側・中間・腹側に変化させることに成功
その結果、脊髄の発生過程をin vitroで模倣する方法論によって、ヒトiPS/ES細胞から3次元脊髄組織を分化誘導する方法を確立。分化誘導した3次元脊髄組織は、適切な背側化因子と腹側化因子を添加することで、分化領域を背側、中間、腹側に変えることができたという。また、誘導した組織は発生学的な背景を反映したマーカー発現や構造を有しており、ヒト脊髄の発生過程を模倣していると考えられる。
今回確立した方法は、脊髄組織内における神経回路形成に関連した研究や、ヒト胚発生初期の段階で異常をきたす遺伝性脊髄疾患の病態の解析、疾患モデルの作製だけでなく、筋肉や脳といった生体内で脊髄が関わっている他の組織とのネットワークの形成に関わる研究にも活用できる、と研究グループは述べている。
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