仕組みがよくわかっていない軸索の走化性
奈良先端科学技術大学院大学は8月7日、軸索が伸びる方向を決定するためのナビゲーター分子を発見し、その働きを明らかにしたと発表した。この研究は、同大先端科学技術研究科バイオサイエンス領域の馬場健太郎研究員、稲垣直之教授、同大研究推進機構の河野憲二特任教授、米カリフォルニア大学デービス校のJames S. Trimmer(ジェイムズ・トリマー)教授、東京大学大学院工学系研究科の渡邉力也講師らのグループによるもの。研究成果は英国の学術誌「eLife」に掲載されている。
画像はリリースより
脳内の神経細胞は、軸索と呼ばれる長い突起を脳内の正しい場所に伸ばして、正しい神経細胞と結合することで脳の活動に必要な情報ネットワークを作る。その方法のひとつとして、軸索の先端がまわりの誘引分子を検知し、分子が多く存在する方向に向かって伸びることが知られており、走化性と呼ばれている。しかし、その仕組みはよくわかっていなかった。
誘引分子「ネトリン」のわずかな濃度差を検知
研究グループは今回、軸索が周囲に存在する誘引分子「ネトリン」のわずかな濃度差を検知して、軸索を伸ばす役割のタンパク質「シューティン」に伝えることにより、ネトリンが多く存在する方向に軸索伸長を誘導するという仕組みを解明。また、この仕組みが働かなくなるマウスを作製したところ、軸索が伸びる方向を決められず、脳内の軸索の走行経路に異常が生じることもわかったという。
この軸索進路決定のナビゲーターの解明は、神経再生の治療法開発にとって基盤となる知見と考えられる。走化性は、神経回路形成、免疫反応、創傷治癒、再生などに重要な役割を果たし、走化性の障害は、奇形や神経障害、免疫不全、がんの転移等の病態に関与する。さらに、このような走化性の仕組みは、免疫細胞の移動やがん細胞の浸潤など他の細胞にも存在する可能性が指摘されており、研究グループは「神経科学に加えて免疫学やがん研究といった医学領域の研究の加速も期待できる」と述べている。
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・奈良先端科学技術大学院大学 プレスリリース