心筋症を引き起こすイオンチャネルの異常
千葉大学は8月3日、心臓が生涯にわたり元気に動き続けるためには、心臓のさまざまな細胞が良好なコミュニケーションを電気的に行うことが重要であることを動物実験で明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院薬理学の松本明郎准教授、神戸大らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
心不全の約13~20%は心筋症が原因とされている。心不全は日本人死因の第2位を占める心臓疾患で、2020年には患者数が日本だけでも120万人に達すると予想されているが、5年生存率は約50%と依然として重篤な疾患である。そのため、新たな治療法の開発が喫緊の課題とされているが、心不全の発症原因は多岐にわたるため、それぞれの原因に対応した治療法を開発しなければならず、開発には、ヒトの病態を再現した動物が必要となる。
これまで心筋症に関わる遺伝子の異常は主として、収縮力を低下させるものが知られてきたが、心筋細胞で電気を生み出すイオンチャネル(KATPチャネル)の異常も心筋症を引き起こすことが2004年に米国で報告された。しかし、その発症メカニズムは不明のままだった。
心筋細胞が作り出す電気の歪みが心不全増悪の原因に
研究グループは、心臓にKATPチャネル遺伝子の一部を過剰発現させたチャネル異常マウスを作成し解析を行ったところ、約半数がヒトの中年期に相当する50週齢までに死亡した。チャネル異常マウスの心臓は拡張し、心筋組織内の線維化が加齢とともに進行するなど、ヒトの心筋症と同様の病態が形成されていた。
このマウスではKATPチャネルが十分に働かず、心筋細胞の活動電位(電気)に歪みが生じていた。この心筋細胞の電気的異常が隣り合わせに存在する心線維芽細胞を活性化し、線維化やサイトカイン産生を促進させるとともに、心筋細胞の肥大化など心不全の増悪を招いていることが明らかになった。
心臓は、心筋細胞、心線維芽細胞、マクロファージなどさまざまな細胞が集まっている。心筋細胞が十分に伸縮できなくなることが心筋症の原因と考えられており、収縮力を強める治療薬などが用いられている。今回の研究成果から、心筋細胞が作り出す電気に歪みが生じると、周囲を取り囲む心線維芽細胞とのコミュニケーションが不良になり、心筋症の原因になることが明らかとなった。また、心筋細胞のつくりだす電気の異常は、不整脈と密接に関係しており、今回の研究成果は、電気の異常が不整脈だけでなく、心筋症にも関与することを初めて明らかにしたものだ。研究グループは、「研究成果とモデルマウスが心筋症の重症化を遅らせるための治療法の開発に役立つことが期待される」と述べている。
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