インタビューと質問紙調査で母親の感情変化を数値化
金沢大学は8月3日、自閉スペクトラム症(ASD)児を持つ母親を対象にインタビューと質問紙調査を行い、幼少期における母親の感情の変化を数値化し、発達障害に関する知識が高いほど、診断時のネガティブな感情が低下することを実証することに成功したと発表した。この研究は、大阪大学大学院連合小児発達学研究科金沢校の冨山更大学院生、金沢大学医薬保健研究域医学系の三邉義雄教授、金沢大学子どものこころの発達研究センターの菊知充教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学雑誌「PLOS ONE」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
自閉スペクトラム症児の母親は、ストレスが高いと言われてきたが、出生時からの母親の感情変化は、具体的には明らかにされていなかった。また、自閉スペクトラム症児の母親の心理的苦痛の保護要因としてソーシャルサポートは良く知られているが、発達障害に関する知識の影響について調べたものはほとんどなかった。
健常児の母と比べ、診断前から高いストレスと心理的苦痛が
今回、研究グループは、5~8歳の言語発達に遅れのない高機能の自閉スペクトラム症児の母親30名を対象に、子どもに対する感情の経時的変化を出生時から調査時(5~8歳)まで後方視的に調査し、健常児の母親32名と比較した。その結果、自閉スペクトラム症児の母親は、医療機関で診断を受ける前からすでに健常児の母親と比べて、高いストレスと心理的苦痛を抱えていることが明らかとなった。
さらに、自閉スペクトラム症児の母親のみに焦点を絞り、診断に関連するイベントごとの時点(出生時、発達の問題に気付いた時点、診断を受けた時点、調査時点)における子どもに対する感情を調べたところ、発達障害に関する知識が高いほど、子どもに対するネガティブな感情を持ちにくいことが判明。特に、診断時点での子どもに対するネガティブな感情が緩和される可能性が示された。
これらの研究成果から、自閉スペクトラム症児の母親は、医療機関における診断前から高いストレスが蓄積されており、早期介入は子どものみならず親を含む包括的な支援が必要であることが示された。さらに、母親が事前に発達障害に関する知識を深めることは、診断時期を含み幼少期の子育てにおいて、母親の心理的苦痛を緩和している可能性が示唆された。研究グループは、「今後さらに発達障害に関する知識を普及することが、健やかな親子の関係を築く上で重要」と述べている。
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