全国424施設で2014年にがんと診断された患者56万人対象
国立がん研究センターがん対策情報センターは8月2日、がん診療連携拠点病院を中心とする全国424施設で2014年にがんと診断された患者56万人について、がん医療水準の均てん化を評価する体制構築に向けた診療の状況を調査した結果を発表した。
この調査は、科学的根拠に基づいた標準診療に対し、各施設で実際に行われた診療を調査することで、がん医療水準の均てん化の評価体制構築へ向けた検討を行うことを目的として行われたもの。今回の調査では、主要な5がん(胃・大腸・肺・乳腺・肝臓)と臓器横断の支持療法で選定した標準診療・検査9項目の実施率と、標準診療を行わなかった理由を調査した。また、標準診療は患者の状態によっては控える判断をすることも必要であることから、未実施理由の妥当性についても調査したという。
今回の測定は、2011年症例を対象とした試験的調査に始まり4度目の実施。選定した標準診療の対象となる症例を院内がん登録データより抽出し、各施設で行われた診療をDPCもしくはレセプトデータで収集、突合し、標準診療実施率の算出を行った。今回の症例(2014年症例)においては、調査対象とする施設を昨年よりさらに拡大し実施。研究参加施設は、424施設(がん診療連携拠点病院284施設、都道府県の推薦による院内がん登録実施病院140施設)で、標準診療未実施の理由は、研究参加施設の中から協力の得られた69施設からの回答を集計した。
制吐剤の使用、74.0%から76.3%まで上昇
調査の結果、がん診療連携拠点病院の調査参加率は68%と、2013年と比較して横ばいだった。標準診療の実施率9項目に関しても、2013年と比較して大きな変化はなった(2013年:72%→2014年:73%)。また、未実施理由を加味した標準診療実施率は9項目中6項目で90%以上となった。未実施理由を加味した実施率は、標準的診療が実施されなかった症例の中で、腎機能障害や肝機能障害などにより抗がん剤が使用できなかったなどの臨床的判断や、患者側からの希望といった妥当な理由があったものについては、標準診療が実施されたものとしてカウントしている。
実施率が上昇した例としては、2013年と同様、当初より実施率の低さが課題とされていた臓器横断指標(制吐剤の使用の有無)があげられる。この項目は、未実施理由を加味しない値で、2013年の時点で、74.0%の実施率であったの対し、2014年では76.3%まで上昇した。また、実施率が90%以上の肝臓がん、大腸がん、乳がんを除き、2013年から継続的に参加した施設では、実施率のわずかな上昇が見られたという。
一方、乳がんに対する乳房切除術での再発高リスク症例に対する術後放射線療法の実施率は2013年より低く、適切な診療を加味しても66.6%、催吐高リスク化学療法前の予防制吐剤投与の実施率は多少の上昇はあったものの78.4%にとどまった。標準診療を実施するか否かは、ステージや全身状態だけではなく、さまざまな要素により判断されるため、これらの結果についての解釈には注意を払う必要があるとしている。
今後について、研究グループは「標準診療実施率の結果から施設間格差などに注目するのではなく、未実施の理由を詳細に調査、検討したうえで、適切な治療方針の検討が行われていたかどうかを評価することが重要」としている。
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・国立がん研究センター プレスリリース