免疫監視機構が発動しにくい「免疫特権部位」
九州大学は8月1日、涙の中に含まれるコレステロール硫酸という脂質が、免疫細胞の動きに重要なDOCK2というタンパク質の機能を阻害し、眼を炎症細胞の浸潤から守る働きをしていることを発見したと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授、宇留野武人准教授、大学院の櫻井哲哉博士課程3年生らの研究グループが、慶應義塾大学医学部の杉浦悠毅講師、末松誠客員教授らの研究グループと共同で行ったもの。研究成果は「Science Signaling」に掲載されている。
画像はリリースより
免疫系は、生体を守るために進化した必須の防御システムであり、免疫細胞は生体内を常にパトロールして、病原微生物などの異物の侵入を監視している。その一方、過剰な免疫応答は、正常組織も攻撃するリスクをはらんでいるため、生体には免疫監視機構が発動しにくい組織や空間が存在し、これを免疫特権部位と呼ぶ。
この免疫特権という概念が提唱されてから70年経った今も、これらの組織がどのようにして免疫のセンサーをかいくぐっているのか、その全貌は依然として明らかにされていない。
CSが眼における免疫特権環境の形成に貢献
研究グループは、免疫細胞が動くために必須の分子DOCK2に着目し、その阻害物質の探索を進める過程で、コレステロール硫酸(CS:Cholesterol sulfate)がDOCK2の働きを強力に抑制し、免疫細胞の動きを止めることを発見した。次に、体内のどこにCSが存在しているのかを明らかにするため、CSを産生するのに重要なタンパク質「Sult2B1b」のマウス組織における発現を調べた。解析の結果、CSは、涙に脂質成分を供給する組織であるハーダー腺(ヒトのマイボーム腺に相当)で最も大量に産生されており、実際に、涙の中には多量のCSが含まれていた。一方、Sult2B1b が発現できないように遺伝子操作したマウスでは、CSがほぼ完全に消失していた。また、紫外線照射や抗原投与により、免疫細胞の浸潤を伴う眼の炎症が悪化したが、CSを点眼することで炎症が抑制されたという。
今回の研究により、CSがDOCK2の機能を阻害し、免疫細胞の浸潤をブロックすることで、眼における免疫特権環境の形成に貢献していることが明らかになった。他の特権組織におけるCSの機能解析は今後の課題だが、CS—Sult2B1b経路は、免疫特権を人為的に付与したり、剥奪するための方法を開発する上で、格好の標的分子となることが期待される、と研究グループは述べている。
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・九州大学 プレスリリース