研究結果が安定せず「効果がない」との報告も
兵庫医科大学は7月31日、体重と用量に基づいたアスピリンの心血管イベントとがんの発症予防の効果を明らかにしたと発表した。この研究は、同大臨床疫学の森本剛教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は「Lancet」に掲載された。
低用量アスピリン(75-100mg/日)による脳梗塞や心筋梗塞の再発予防は広く世界で普及しており、冠動脈ステント後の血栓予防薬としても標準的な治療薬となっている。また、心血管イベントの一次予防としても、ハイリスク患者を中心に世界で広く利用されており、近年では大腸がんの予防効果に関する報告もある。
しかし、低用量アスピリンによる心血管イベント一次予防に関する研究結果は安定せず、近年では「効果がない」との報告も散見される。その理由として、降圧薬や糖尿病治療薬のように、降圧効果や血糖値を指標に用量を調整する薬剤とは異なり、全ての成人に対して低用量アスピリンとして一括りに処方されていることから、患者個人での効果に違いがあるのではないか、その効果の違いの原因に体重の差異があるのではないか、と考えられていた。
がん予防効果も体重70kg超で認められず
今回研究グループは、アスピリン群と対照群を比較した心血管イベントに関する研究を検索し、統合対象となる研究を抽出。個別の研究組織から患者単位のデータを入手し、定義やデータ構造を統一化した上で、統合解析を行った。10研究が統合対象となり、11万7,279人の患者データが分析された。
その結果、心血管イベント一次予防において、体重が70kg以下の患者では、全ての心血管イベント(ハザード比(HR)0.77)、脳卒中(HR0.71)、心筋梗塞(HR0.81)、心血管死(HR0.79)はいずれも有意に低用量アスピリン群で予防効果が認められた。しかし、70kg以上の群ではいずれも予防効果が認められず、逆に高用量(325mg/日以上)では、体重が大きい患者で効果があることが明らかになったという。がん予防効果については、登録時に70歳未満で体重が70kg以下の患者では有意に大腸がんの発生リスクが低用量アスピリン群で低下していたが、70kgを超えると、大腸がん予防効果が認められなかったとしている。
研究グループは、低用量アスピリンと一括りにした(one-dose-fits-all)処方は、少なくとも心血管イベント一次予防には適切でないことが明らかとなったとし、今後は体重別などの至適な用量についても研究を進める予定だという。また、一次予防だけでなく二次予防で用いられている低用量アスピリンも、効果があることは示されているが、実際には体重の影響を受けている可能性があり、二次予防領域においても検討が必要だと述べている。
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・兵庫医科大学 研究成果