第69回日本東洋医学会学術総会で金沢医大・元雄氏が発表
金沢医科大学腫瘍内科学講座教授の元雄良治氏は、先ごろ開催された第69回日本東洋医学会学術総会で、白金製剤・オキサリプラチンに伴う末梢神経障害と貧血に対する、漢方薬の人参養栄湯の無作為化比較試験HOPE-2の中間解析結果を公表し、人参養栄湯が多彩な副作用抑制効果を示すとの見解を示した。
人参養栄湯は人参(ニンジン)、当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)、白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、桂皮(ケイヒ)、黄耆(オウギ)、陳皮(チンピ)、遠志(オンジ)、五味子(ゴミシ)、甘草(カンゾウ)の12種類の生薬で構成される。一般には病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血の治療に使用されている。
元雄氏は人参養栄湯について(1)末梢神経障害改善、(2)神経細胞保護、(3)神経増殖因子誘導、(4)骨髄球系細胞増殖促進、(5)抗がん剤投与後の造血促進、(6)赤血球膜安定化、といった作用があると解説。さらに名古屋市立大との共同研究結果から、オキサリプラチンによる培養神経細胞での神経突起の伸長抑制、マウスモデルでの冷痛覚や機械刺激での反応閾値低下を人参養栄湯が改善したと説明した。そのうえで人参養栄湯は「神経保護作用を考えれば、オキサリプラチンによる末梢神経障害に対しては、むしろ根本治療と言える」との認識を強調した。
食欲不振や血球系副作用、倦怠感や不眠などの抑制効果の可能性も
HOPE-2試験の対象は、術後補助化学療法としてカペシタビン+オキサリプラチンのXELOX療法を施行したステージIIIA、IIIBの大腸がん患者40例。XELOX療法はオキサリプラチン130mg/m2の2時間点滴静注後、患者ごとの体表面積に応じたカペシタビン1日投与量を1日2回に分けて14日間服用し、その後7日間休薬が1サイクル。患者は人参養栄湯併用群と非併用群に各20例が無作為に割り付けられた。
主要評価項目はXELOX療法が8サイクル終了した治療開始24週間目の蓄積性末梢神経障害の程度。副次評価項目は急性末梢神経障害の程度、ヘモグロビン濃度、好中球数、血小板数の最大低下量としている。
中間解析結果での蓄積性末梢神経障害の発現状況は、併用群でgrade0が7例、grade1が13例、非併用群ではgrade0が3例、grade1が8例、grade2が7例、grade3が2例であり、併用群で有意に程度が低かった(p<0.05)。
オキサリプラチン標準量(130mg/m2×8=1040 mg/m2)完遂率は併用群が70%、非併用群が25%と併用群で有意に高い割合であり(p<0.01)、オキサリプラチン積算投与量でも併用群が972±130mg/m2、非併用群が833±163mg/m2と併用群で積算投与量が有意に多かった(p<0.001)。
また、オキサリプラチンの減量に至った症例での理由については、併用群では蓄積性末梢神経障害、食欲不振が各2例、血小板減少が1例、非併用群は蓄積性末梢神経障害、食欲不振が各5例、好中球減少が3例、血小板減少、全身倦怠感、不眠が各1例だった。
この結果から元雄氏は「人参養栄湯で対応できる副作用は末梢神経障害での1対1対応にとどまらず、食欲不振や血球系副作用、倦怠感や不眠などの抑制効果の可能性も示唆される」と述べ、その幅広い応用に期待を示した。
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