細胞の中のエネルギー代謝で中心的な役割を果たしているATP
早稲田大学と東京工業大学は7月24日、細胞の中のエネルギー代謝で中心的な役割を果たしているアデノシン三リン酸(ATP)を検出する、赤・緑・青(RGB)色の蛍光ATPセンサーの開発に成功したと発表した。この研究は、早稲田大学理工学術院の新井敏研究院講師と東京工業大学科学技術創成研究院の北口哲也准教授(論文投稿当時、早稲田大学重点領域研究機構研究院准教授)らの研究チームが、東京大学大学院総合文化研究科、シンガポール国立大学、ハーバード大学と共同で行ったもの。研究成果は、独化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載され、近日中に紙面掲載される予定。
地球上のあらゆる生物は、栄養素の分解を通して獲得したエネルギーを、ATPの形に変換・保存し、必要に応じて、ATPからエネルギーを取り出すことで、生命体を構成する細胞の中のさまざまな化学反応を滞りなく進行させたり、必要な場所に必要な物質を輸送するシステムを動かしたりしている。このATPの細胞内の分布を理解するためには、細胞内のATP濃度の変化の情報を蛍光シグナルに変換する蛍光ATPセンサーを細胞の中に導入し、蛍光顕微鏡を用いて生きた細胞を観察する蛍光イメージング技術が最も有力な手法のひとつだ。
同一細胞内の異なる場所のATP動態の同時観察が可能に
研究チームは、標的とするATPに特異的に結合するタンパク質(ATP合成酵素の一部)と、蛍光を発する色素を含む蛍光タンパク質をペプチドリンカーで繋ぎ、その長さやリンカーを構成するアミノ酸の種類を独自の手法で最適化することで、青・緑・赤色の蛍光ATPセンサー「MaLionB, G, R」を開発。この蛍光ATPセンサーを自在に組み合わせることで、従来の技術では原理的に困難だった、同じ細胞内の異なる場所のATPの動態の同時観察や、ATP以外の他のシグナルやタンパク質の動態との同時観察などが可能になったという。
画像はリリースより
今回開発した一連の蛍光ATPセンサーは、エネルギー代謝系の変化について知りたいというニーズに対して、直感的にわかりやすいビジュアルのエビデンスを提供できる。とくに、薬剤の効果を迅速に解析することが要求される、がんや肥満などの生活習慣病のための創薬開発で威力を発揮するという。また、力や熱などの物理的な刺激に伴う細胞の応答を知ることも、医療機器開発の分野においては重要であることから、研究チームは「創薬・医療機器開発のさまざまな分野の研究開発を加速させるものと期待される」と述べている。
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