DNAのねじれを解消するDNAトポイソメラーゼIIβ
熊本大学は7月18日、DNAの「ねじれ」を解消する働きを持ち、抗がん剤の標的として重要なタンパク質であるDNAトポイソメラーゼIIβの新しい生理機能を解明したことを発表した。この研究は、同大パルスパワー科学研究所の諸冨桂子特別研究員、矢野憲一教授と、横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科の斎藤慎太特任助教、足立典隆教授らの共同研究によるもの。研究の成果は、「Scientific Reports」に掲載された。
DNAトポイソメラーゼIIβは、細胞内でDNAの「ねじれ」や「からまり」を解消する役割を担っているタンパク質。エトポシドやドキソルビシンといった抗がん剤の標的分子であることから、がん治療において重要な分子である。DNAトポイソメラーゼIIβは、エトポシドなどによるDNA二重鎖切断生成の標的として重要なことは広く認知されてきたが、別の要因でDNA二重鎖切断が生じたときに何らかの生理的な役割を担っているかについては不明だった。そこで研究グループは、生きている細胞内でDNA二重鎖切断が生じた場合に、DNAトポイソメラーゼIIβの細胞内でのふるまいに何か変化が生じないかについて調べることから研究をスタートしたという。
DNA切断に素早く応答、切断部位に集まる様子を観察
研究グループは、パルスレーザーを使用して、細胞中の狙った部位にDNAの切断を作り出す技術を利用。生きている細胞の中でDNA切断が生じるとDNAトポイソメラーゼIIβが素早く応答して切断部位に秒単位で集まる様子を観察することに成功。次にDNAトポイソメラーゼIIβの遺伝子を破壊したヒト細胞を作製したところ、この細胞はDNA損傷剤「ブレオマイシン」に対する感受性が上がり、DNA切断の修復メカニズムのひとつである相同組換えの効率が低下していることが明らかになったという。
画像はリリースより
次にDNAトポイソメラーゼIIβの遺伝子を破壊したヒト細胞を作製したところ、この細胞はDNA損傷剤ブレオマイシンに対する感受性が上がり、DNA切断の修復メカニズムのひとつである相同組換えの効率が低下していることが明らかになったという。
今回の研究により、DNAトポイソメラーゼIIβがDNA切断に素早く応答してその修復に関与することが世界で初めて示された。研究グループは「エトポシドやドキソルビシンといった抗がん剤によるがん治療法の効率化や、これらの抗がん剤の副作用低減を考える上での重要な新知見であり、より良いがん治療のための基盤となるものといえる」と述べている。
▼関連リンク
・熊本大学 プレスリリース