動物細胞の長期保存には液体窒素や超低温冷凍庫が不可欠
山梨大学は7月18日、室温で1年以上保存したマウスのフリーズドライ精子から、健康な産仔を作出することに初めて成功したと発表した。この研究は、同大発生工学研究センターの若山照彦教授、若山清香特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Scientific Reports」に掲載された。
画像はリリースより
種の多様性を維持するため、さまざまな動植物の遺伝子資源を保全することが不可欠である。植物はすでに、安全に長期保存を可能にするため、永久凍土のあるノルウェー・スバールバル諸島で、世界中の種子を保存するプロジェクトが始まっている。しかし動物の生殖細胞や体細胞は、植物とは異なり液体窒素あるいは超低温冷凍庫が不可欠であり、維持管理費が膨大になるだけでなく、大規模な震災などで液体窒素や電力の供給が止まってしまった場合、すべての細胞は溶けて死滅してしまうと考えられている。
研究グループは、顕微授精やクローン技術による絶滅動物の復活や絶滅危惧種の救済技術の開発を行っているが、その研究の一環として動物の精子の室温保存技術についても研究している。これまでにも、1998年に世界で初めてフリーズドライで保存した精子から産仔を作ることに成功している。しかし、室温では1か月しか保存できず、長期保存のためには冷蔵庫が必要だった。その後さまざまな乾燥方法が考案され、特殊な保存装置を使えば室温での保存期間を伸ばせることが判明。フリーズドライ技術は世界中で使われている最も一般的な方法であり、保存場所も問わないことから、フリーズドライで精子を長期間保存する技術の開発は重要な研究テーマとなっていた。
冷凍庫不要、維持管理コストもかからない保存法を開発
今回の研究では、室温では短期間しか保存できない原因がアンプルビン内に混入した空気であることを突き止め、アンプルビンの非破壊検査などにより高真空アンプルビンを作製。このアンプルビンを室温で1年以上保存した後、精子のDNA損傷度や受精能を調べ、最後に胚移植を行ったところ、問題なく健康な産仔を得られることがわかった。この方法は小さなアンプルビンを使用するため場所を取らず、冷凍庫のみならず冷蔵庫も必要なく、維持管理コストもかからないという。
実験では、机の引き出しの中で1年以上保存したマウス精子から100匹以上の産仔を得ることに成功した。より長期間の保存の可能性については現在検討中だが、1年間保存した精子からの産仔作出率は、3か月間保存した場合に比べほとんど低下しなかったことから、長期間の保存が可能だと考えられる。今後、さらに信頼性が証明出来れば、動物の遺伝子資源も植物の種子と同様に室温で安全に長期保存が可能になるだけでなく、毎年全世界で作られる膨大な数の遺伝子改変マウスの維持費や、不妊治療における精子の保存費の大幅削減が期待できるとしている。
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・山梨大学 プレスリリース