致死率の高い重症熱性血小板減少症候群もマダニが媒介
東京医科歯科大学は7月18日、好塩基球の放出するヒスタミンが、マダニ吸血を阻害することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学大学院医歯学総合研究科免疫アレルギー学分野の烏山一教授と吉川宗一郎助教ら、東京慈恵会医科大学、東京医科歯科大学難治疾患研究所、適寿リハビリテーション病院の研究グループによるもの。研究成果は「Frontiers in Immunology」に掲載された。
画像はリリースより
吸血性の寄生虫であるマダニは、ライム病やつつが虫病などを引き起こす病原体を伝搬するベクターとして知られ、世界的にも対策が求められる害虫。日本国内においても、致死率の高い重症熱性血小板減少症候群(SFTS)をマダニが媒介していることが判明し、近年警戒されるようになっている。これまで、マダニ吸血を防ぐ効果的な手段として殺ダニ剤が用いられてきたが、薬剤耐性マダニの出現や環境破壊の懸念から、これに変わる代替法が求められてきた。マダニの吸血に耐性がある動物では、マダニが媒介する病原体の伝播も阻止されることから、マダニ吸血に対する免疫がマダニ感染予防の新たな手段として注目されている。
研究グループは、これまでに、マダニ吸血に対する免疫には、免疫細胞である好塩基球が必須なことを解明していた。しかし、この免疫細胞がどのようにしてマダニ吸血を阻害しているのかは、不明だった。
ヒスタミンによって表皮が肥厚することでマダニの吸血阻害
まず、研究グループはマダニ吸血阻害に関与する免疫物質を同定することを目指した。さまざまな検証実験や文献情報から、ヒスタミンがマダニ吸血を阻害していると考え、マウスを使って検証を行った。
マダニを吸血させたマウスの感染局所にヒスタミンを直接投与したところ、マダニの吸血量が著しく減弱することが判明。マダニを2回感染させたマウスにヒスタミン阻害剤を投与すると、マダニ吸血耐性が完全に消失したという。また、ヒスタミンを産生する主要な免疫細胞として、マスト細胞と好塩基球が知られているが、ヒスタミンを産生することのできないヒスタミン欠損マウスを用いた解析から、マダニ吸血を阻害しているヒスタミンを出しているのは、好塩基球であることを明らかにした。
さらに、ヒスタミンがどのようにしてマダニ吸血を阻害しているのかを検証するため、マダニ感染マウスにヒスタミンを投与。その結果、マダニ刺し口周辺の皮膚表皮が肥厚することが明らかになり、ヒスタミン欠損マウスや好塩基球欠損マウスでは、ほとんど表皮が肥厚していないことが判明した。これらの結果から、好塩基球が放出するヒスタミンによって表皮が肥厚することで、マダニの吸血が阻害されることが示唆されたという。
ヒスタミンは、花粉症をはじめとするアレルギー疾患の悪玉物質とされてきたが、今回の研究により、マダニの感染防御にとっては重要な役割を持つことが明らかになった。最近の報告から、ヒトにおいてもマダニ感染経験のある患者ではマダニ媒介性感染症の発症リスクが大幅に軽減されることがわかってきており、マダニ吸血に対する免疫が新たなマダニ感染予防として期待されている。近年では世界各地で抗マダニワクチンの開発が試みられており、今回の研究成果は、従来よりも効果的なワクチンを開発する上で非常に有益であると考えられる、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京医科歯科大学 プレス通知資料