多層オミックス解析により、分子特徴が明らかに
慶應義塾大学は7月17日、関節リウマチ患者の寛解状態の分子特徴を多層オミックス解析により明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部内科学(リウマチ・膠原病)教室の竹内勤教授、鈴木勝也専任講師、同微生物・免疫学教室の吉村昭彦教授らが、武田薬品工業株式会社と共同で行ったもの。研究成果は「Nature Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
関節リウマチは、疾患修飾性抗リウマチ薬の進歩により、病状の進行抑制が可能となってきたが、痛み、機能障害、疲労感などが残存してしまうことがあり、薬剤が不要となるような持続的な寛解状態は、十分に達成されていない。
臨床的に炎症が認められる関節リウマチ患者を薬剤治療し、関節の痛みや腫れがほぼない寛解状態(臨床的寛解)となった場合、体内の分子の状態は健常人により近くなると考えられている。これまで、薬効と関連する分子特徴は精力的に調べられてきたが、薬剤による寛解状態の詳細には不明だった。
臨床的寛解と分子的寛解の指標には一定の乖離が
今回研究グループは、炎症状態にある関節リウマチ患者の末梢血の多層オミックスデータ(トランスクリプトーム、プロテオーム、免疫表現型)を健常人と比較して、両者を識別する分子情報に基づく客観的な診断モデルを開発し、疾患状態をスコア化。これらの分子特徴が、現在、標準的に用いられている3種類の疾患修飾性抗リウマチ薬(メトトレキサート、TNF阻害薬、IL-6受容体阻害薬)により、いずれも健常人の状態に近づくことを疾患プロスペクティブコホート解析により明らかにしたという。また、この解析により、臨床的寛解と分子的寛解の指標には一定の乖離が認められ、臨床的寛解例には分子的寛解例と非寛解例が存在することが明らかになった。さらに、分子的寛解の程度は、長期にわたる関節リウマチの炎症度合いや、身体機能障害の指標との強い関連が認められ、持続的な寛解に重要であることが判明したとしている。
その一方で、一部の分子特徴は薬物療法後も健常人と異なっており、これらは現在用いられている炎症度合いや身体機能障害の指標とは関連しない関節リウマチ患者の特徴であることも見出された。これらの分子特徴は800のRNAと13のタンパク質で構成され、免疫細胞のリファレンスデータとの照合により、好中球、単球、ナチュラルキラー細胞との関連が示唆された。また、患者体内の分子情報に関する公共データを利用した解析から、炎症性腸疾患や肥満患者とより共通する特徴であることも明らかになったという。
今回の研究で解明された分子的寛解の特徴は、依然として不明な病態のメカニズムの解明の手掛かりになるとともに、関節リウマチの精密医療の実現や新規創薬に向けた重要な一歩となることが期待される。なお、同研究において取得された239検体の多層オミックスデータは無償で公開されている。このデータを異なる視点から再活用することで、関節リウマチに関する新しい知見の発見が促進されることも期待される。
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