少ない画像数で高い精度を達成できるシステムの開発目指す
筑波大学は7月12日、90%以上という非常に高い診断精度を有する皮膚腫瘍人工知能診断補助システムを開発したと発表した。この研究は、同大医学医療系の藤本学教授、藤澤康弘准教授と、京セラコミュニケーションシステム株式会社が共同行ったもの。研究成果は、「British Journal of Dermatology」でオンライン公開されている。
画像はリリースより
通常、人工知能(AI)のディープラーニングによる画像の識別には、1つのカテゴリごとに最低1,000枚の画像を用いた学習が必要であるとされており、今回、研究グループが設定した14種類の皮膚腫瘍を識別するシステムの構築には、1万4,000枚以上の画像が必要となる。2017年には、米スタンフォード大学の研究グループが、皮膚がんの識別精度が皮膚科医と変わらないAI診断補助システムを開発したとの報告があるが、その論文では、ダーモスコープを用いて撮影されたものを含む12万9,450枚の画像が使用されていた。
そこで研究グループは、一桁少ない画像数で高い精度を達成できる技術開発を行うことを目標としたという。
皮膚悪性腫瘍の判定感度96.5%、特異度89.5%を達成
筑波大学は、蓄積してきた臨床写真の中で、病理検査を行い皮膚腫瘍の診断が確定したものを中心に収集し、診断ごとに仕分けた上で間違った写真が含まれていないかチェックを行い、診断違いの写真を除外。その結果、14種類の皮膚腫瘍に関する約6,000枚のデータセットを取得した。ディープラーニングは、120万枚の一般的な物体画像により事前学習されているGoogLeNetをベースとして使用し、学習データは皮膚腫瘍が画面の中心に来るようにトリミングした後に、1,000×1,000ピクセルにリサイズ、その後15度ずつ傾けながら別画像として保存することで、1枚の写真から24枚の学習画像を作成。学習時には画像にぼかしを加えたり、明るさを±10%の範囲で変化させたりすることで、撮影時の状況のばらつきを含めて学習できるように工夫したという。
その結果、皮膚悪性腫瘍の判定感度96.5%、特異度が89.5%という高い診断精度を達成。同システムを評価するため、同じ画像セットを診断するテストを用いて、AI診断補助システムと日本皮膚科学会認定皮膚科専門医13名とを比較した。その結果、皮膚科専門医による皮膚腫瘍の良悪性の識別率が85.3%±3.7%であったのに対して、AI診断補助システムの良悪性の識別率は92.4%±2.1%と有意に高いことが明らかとなった(P<0.0001,Welch’s t-test)。良悪性の識別より難しい14種類の詳細な診断の正答率でも、皮膚科専門医が59.7%±7.1%であったのに対して、AI診断補助システムの正答率は74.5%±4.6%であり、こちらも有意に優れていたという(P<0.0001,Welch’s t-test)。
今回開発した皮膚腫瘍AI診断補助システムは、十分な性能評価を行った上で、数年以内に実際の臨床の現場での使用を目指すという。皮膚腫瘍の良悪性が写真で判定できるようになれば、皮膚科専門医が不足している地域においても皮膚がんの早期発見が可能となり、手遅れになる前に必要な治療が受けられるようになる。また、現状のシステムには、非常にまれな皮膚腫瘍が含まれていないため、今後は対応する診断名を増やすことで、さらに実用的なものに発展させていくことが必要だ。さらに、皮膚腫瘍だけでなくその他の皮膚疾患も診断が出来るシステムに拡張し、あらゆる皮膚疾患に対応できるようにバージョンアップを進めていくとしている。
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