社会問題となっているあおり運転などの交通トラブル
名古屋大学は7月11日、運転中の高齢者が、連続する赤信号に怒りを感じやすいという結果を心理実験や脳計測で明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院情報学研究科の川合伸幸准教授(中部大学創発学術院客員准教授)と中田龍三郎特任講師らのグループによるもの。研究成果は、科学誌「Japanese Psychological Research」に掲載された。
画像はリリースより
近年、あおり運転などの交通トラブルが社会問題となっている。これまでの研究から、自動車を運転しているときには日常でのほかの場面より怒りが生じやすく、たとえば、運転中の不快な出来事(無理な追い越しにあう)は、運転以外の日常生活での不快な出来事(列に割り込まれる)よりも怒りを感じる割合は高くなるとの調査結果が報告されていた。また、怒りを感じることの多いドライバーの方が危険運転を行いやすい傾向があることが示されている。しかし、これらのような事後報告の調査ではなく、実際に運転中に怒りを感じることを実験的に示した研究はなかった。
前頭葉の実行機能の弱さと怒りの感じやすさに相関
今回の研究では、高齢者(65~74歳:平均70.2歳)と学生(19~31歳:平均21.7歳)が行動実験に協力。大型の運転シミュレーターで再現した全長4.0~6.2kmの一般道路を法定速度でできるだけ早く走行してもらった。
その結果、高齢者は赤信号走行後に主観的な攻撃度を反映する怒り行動尺度得点が安静状態よりも高くなったが、学生には変化はなかったという。また、青信号走行後は、高齢者と学生のいずれも攻撃性得点に変化はなかった。さらに、赤信号の停止中と青信号の走行中に、額より少し上の左右対称な位置から脳血流に含まれる酸化ヘモグロビン量(oxy-Hb)を測定したところ、高齢者は赤信号で左の酸化ヘモグロビン量が右側より増加したが、学生は左右ともにほとんど変化がなかったという。
これまでの研究から、左前頭葉の活動が右前頭葉より活性化するのは、怒り(攻撃性)を反映することが示されていたが、今回の研究により、「高齢者は赤信号で連続して停止しなければならないと怒りを感じる」ということが明らかになった。また、高齢者は赤信号後の次の黄色信号でも前頭葉は左の活動が高いままで、怒りを持続していることが示されたという。実験前に、高齢者に対して前頭葉の実行機能を評価する検査をしたところ、赤信号での酸化ヘモグロビンの変化量や、怒り行動尺度得点と相関があった。この結果は、実行機能が弱い高齢者ほど赤信号でヘモグロビン値が高くなり、さらに攻撃性得点も高くなるということを示しており、前頭葉の実行機能が弱いほど怒りやすいことが判明したとしている。
現在の日本では、高齢者の交通事故が増加している。この研究は、イライラするような交通状況で、特に高齢者が怒りやすいことを初めて示したものであり、研究グループは、「今後は、どのようにすれば怒りを抑制できるかに係る研究が進むことが期待される」と述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース