左心不全による肺高血圧症発症の分子メカニズムを解明
東北大学は7月10日、左心不全に伴う肺高血圧症発症における分子メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授、佐藤公雄准教授、砂村慎一郎医師の研究グループによるもの。研究成果は、米国科学アカデミーの学会誌である「Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA(PNAS)」(電子版)に掲載されている。
画像はリリースより
心不全患者の一部において、左心房の血圧の上昇が肺に血液を送り出す動脈(肺動脈系)に影響し、肺動脈の収縮や肥厚(リモデリング)が引き起こされ、肺高血圧症の発症に至ることが知られている。この左心不全に伴う肺高血圧症は心不全患者の治療と予後に重要な影響を与えるが、その発症メカニズムについては未だ完全には解明されていない。現状は、薬剤治療やペースメーカーといった植込み型のデバイス治療などが心不全治療に用いられているが、依然として死亡率が高く、新規の心不全治療薬の開発が待ち望まれている。
生薬成分セラストロールが症状改善に効果的か
研究グループは、これまで細胞の重要な生理機能に関与しているタンパク質ローキナーゼ(Rho-kinase)が循環器疾患に深く関与していることを報告してきた。今回の研究では、類似した2つのRho-kinaseであるROCK1とROCK2の遺伝子破壊マウス(ノックアウトマウス)において、大動脈をゆるく縛ることで左心房圧を上昇させた圧負荷心不全モデルを作成することにより、心不全の病態の進行でROCK1とROCK2が異なる役割を担っていることを世界で初めて証明した。
さらにその下流で、酸化ストレス増幅タンパク質シクロフィリンA(CyPA)が、左心不全に伴う肺高血圧症発症に深く関わっていることを解明。また、CyPAを標的とした新規心不全治療薬の探索を行った結果、生薬成分であるセラストロールを投与すると心不全が改善されることを発見したという。
今回の研究成果について、研究グループは、「今後本研究に基づき、基礎研究から臨床応用へのトランスレーショナルリサーチを発展させ、新規治療薬の開発につながることが期待される」と述べている。
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