海氷に生息する微細藻類フラジラリオプシス シリンドラス
北海道大学は7月4日、海氷に生息する微細藻類Fragilariopsis(フラジラリオプシス)cylindrus(シリンドラス)由来の不凍タンパク質(fcIBP)が、従来の不凍タンパク質のクラス分けには当てはまらないことを見出したと発表した。この研究は、同大低温科学研究所の佐﨑元教授と、独アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所のマッダレーナ・バイヤー-ジラルディ博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of National Academy of Science, USA(PNAS)」でオンライン公開されている。
画像はリリースより
寒冷圏に生息する生物は、不凍タンパク質と呼ばれる特殊なタンパク質を体内で生産し、氷結晶の成長を阻害することで凍死を防いでいる。これまで、氷結晶の六角底面に吸着して成長を阻害する不凍タンパク質は、凍結温度を3~5℃以上低下させる高活性型であり、六角底面に吸着しない不凍タンパク質は凍結温度を1~2℃以下しか低下させることができない中活性型であると考えられてきた。
そこで佐﨑教授らの研究グループは、水中での氷単結晶の成長を詳細に観察できるチャンバーを独自に開発。その中でfcIBPを含む水溶液中での氷結晶の形状を明視野顕微鏡で、氷結晶の成長速度をマッハツェンダー光干渉計で精密に計測した。また、蛍光ラベル化したfcIBPとレーザー共焦点蛍光顕微鏡を用いて、fcIBPが氷のどの結晶面に吸着するのかを調べた。
臓器の低温保存・低温外科手術への応用に期待
Fragilariopsis cylindrusが生産する不凍タンパク質fcIBPは、1℃以下の凍結抑制効果しか持たないことが既に知られていたが、今回の研究で、fcIBPが氷結晶の六角底面と側面の両方に結合し、その成長を抑制することを見出した。その結果、水温があまり低くない場合には、氷結晶は純粋な水中で成長させる場合には通常現れない、六角板の形状を示したという。一方、水温が十分に低い場合には、氷結晶は通常よく観察される樹枝状の形状を示したが、側面の成長が抑制されるために枝の幅は狭くなり、熱を逃がしやすいため、枝の先端は逆に速く成長することが判明。fcIBPが1℃以下の凍結抑制効果しか持たないにもかかわらず、氷結晶の六角底面と側面の両方に吸着するという結果は、これまでの不凍タンパク質のクラス分けには当てはまらず、タンパク質が結合する結晶面だけでは、不凍タンパク質の特性を正しく評価できないことが明らかになったとしている。
これらの発見は、氷結晶六角底面への結合と氷結晶成長の阻害のみでは不凍タンパク質の機能を正しく評価できず、結合の強さや氷結晶の成長を阻害する分子論的機構の解明こそが決定的に重要であることを示している。この研究成果は、従来の不凍タンパク質のクラス分けを根底から覆すもので、今後、不凍タンパク質の機能発現機構の解明に役立つとともに、食品の冷凍保存、生きた臓器の低温保存、低温外科手術などに役立つと期待される。
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・北海道大学 プレスリリース