脳機能の回復につながると期待される軸索再生の制御
新潟大学は6月29日、伸長している神経におけるタンパク質のリン酸化を網羅的に解析した結果、神経成長関連タンパク質GAP-43のリン酸化が伸長・再生する神経で特異的に起きることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科の河嵜麻実特任助教、玉田篤史研究員(現・関西医科大学准教授)、医歯学総合病院の岡田正康特任助教と大学院医歯学総合研究科の五十嵐道弘教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell」の姉妹誌である「iScience」掲載されている。
画像はリリースより
脳の神経細胞は、発生期に軸索と呼ばれる突起を伸ばして複雑な神経回路を作る。また、大人になって脳が損傷を受けた場合でも、ある程度軸索が再生することが知られており、これを制御すれば失われた脳機能を回復できるのではないかと期待されている。伸びている軸索の先端には成長円錐とよばれる構造があり、そこに集まっている多数のタンパク質が、軸索を正しい方向に導くと考えられている。
これまでに研究グループは、成長円錐のタンパク質を網羅的に解析し(プロテオーム解析)、軸索伸長関連タンパク質群を同定。細胞内でタンパク質が秩序立って働く仕組みはシグナル伝達と呼ばれ、これにはタンパク質のリン酸化、という現象が関係することがわかっている。そこで今回の研究では、成長円錐の機能解明を目指し、そこでのタンパク質リン酸化の実体を探った。
S96リン酸化の抗体を作成、再生する軸索を特異的に標識
研究では、まず、成長円錐のリン酸化プロテオーム解析を行い、約1,200種のタンパク質から総数3万のリン酸化を含むペプチド(タンパク質の断片)を解析し、約4,600のリン酸化部位を同定。これらリン酸化部位に関するリン酸化酵素(キナーゼ)の認識配列解析を行ったところ、総リン酸化部位の60%以上はMAPキナーゼ(MAPK)群を主体とするプロリン指向性リン酸化酵素の認識配列だった。また、最も多く検出されたリン酸化部位は、神経成長関連タンパク質GAP-43の96番セリン(S96)残基だった。
さまざまな生化学的解析から、このリン酸化はMAPK群の一種であるJNKで起こり、他の高頻度リン酸化部位についても、JNKの関与が証明されたため、成長円錐でのリン酸化にはJNKが中心的役割を担うことが確定。さらに、S96リン酸化(pS96)を特異的に認識する抗体を作成すると、発生過程に成長している軸索、および損傷後に再生する軸索を特異的に標識できることが証明でき、再生軸索から直接S96リン酸化を同定する方法も確立したという。
今回の研究で、軸索の伸長・再生の制御を担うリン酸化酵素の役割が解明され、pS96が軸索の伸長・再生マーカーとなることも証明された。今後は、pS96の軸索伸長での詳細な分子メカニズムや、新たなリン酸化分子マーカーの確立を探索するという。近未来的には、これらのリン酸化を標的として制御することにより、創薬や診断マーカーの開発を含めた神経再生医療への貢献をめざすとしている。
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・新潟大学 プレスリリース