創傷治癒の重要な役割を担うマクロファージ
慶應義塾大学は7月3日、心筋梗塞後の組織修復・補強に重要な免疫細胞「オステオポンチン産生性マクロファージ」を発見し、その分化の仕組みを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部内科学(循環器)教室の佐野元昭准教授、白川公亮助教らの研究グループによるもの。研究成果は、循環器分野のジャーナル「Circulation」に掲載された。
心筋梗塞部位には、さまざまな免疫細胞が集まってくるが、なかでも、白血球の一種であるマクロファージは、破壊された組織の残骸を貪食し除去した上で、コラーゲンなどの線維組織素材の合成を促して組織を修復・補強する能力があり、創傷治癒の重要な役割を担っている。
IL-10-STAT3-ガレクチン-3経路の活性化が重要か
今回、研究グループは、心筋梗塞後の回復に必須なオステオポンチンを産生する細胞を発見した。オステオポンチンは、さまざまな生体内の生理機能を調整し活性化させる物質。心筋梗塞後に線維芽細胞を活性化させて心臓の回復を促進するほか、マクロファージに対しては運動機能の促進や貪食能の活性化という機能を持っていることが知られている。
オステオポンチンが蛍光タンパク質で標識され緑色に光る心筋梗塞モデルマウスを作製し、解析した結果、心筋梗塞後のマウスでは心臓のマクロファージでのみ、オステオポンチンが産生されることが明らかになったという。さらに、心筋梗塞後のマクロファージではガレクチン-3の発現が上昇し、ガレクチン-3が高発現した分画においてオステオポンチンが産生されることを発見。心筋梗塞後のマクロファージは骨髄由来であることが知られていることから、心筋梗塞後に骨髄由来の細胞がオステオポンチン産生性のマクロファージへと分化するためには、サイトカインIL-10の刺激が重要であることが今回の研究で判明したとしている。
画像はリリースより
また、骨髄由来の細胞がIL-10の刺激に応答し、広範囲の遺伝子発現を活性化する物質「STAT3」のリン酸化レベルを上昇させ、続いてガレクチン-3の発現も上昇させることで、オステオポンチンを産生することも明らかになった。この仕組みは、心筋梗塞後のマウスにSTAT3阻害剤を投与すると、マクロファージのガレクチン-3の発現が抑制され、オステオポンチンの産生も抑制されたことからも裏付けられたという。また、IL-10が欠損したマウスでは心筋梗塞後のオステオポンチンの遺伝子発現は抑制された。
これらの結果から、マクロファージにおけるIL-10-STAT3-ガレクチン-3経路の活性化が、心筋梗塞後のオステオポンチンの産生に重要であることが示唆された。マクロファージがオステオポンチンを産生し、破壊された組織の残骸を活発に貪食することで線維組織素材の合成を活性化させ、心臓の回復を助けていることを証明したとしている。
研究グループは「今後、研究を進めることで、生体が本来持っている免疫の力を上手に引き出し、治癒力を高める新しい治療手段の開発につながることが期待される」と述べている。
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