世界39の国と地域の住民1万6,939名にアンケート
北海道大学は7月2日、関係流動性(人間関係の選択の自由度)が高い社会と低い社会の違いをもたらす歴史的原因と、その原因が人々の心理や行動に与える影響を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院文学研究科の結城雅樹教授らの研究グループと、世界18か国の研究者27名とが共同で行ったもの。研究成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に掲載された。
画像はリリースより
これまでの対人行動に関する国際比較研究で、「個人主義的」とされる欧米諸国に暮らす人々の方が、「集団主義的」とされる東アジア諸国の人々よりも人間関係に積極的に関わるという、従来の考えからは説明が難しい現象が見られてきた。これに対して研究グループは、個人主義的な社会では関係流動性が高く、人間関係を比較的自由に選択したり交換したりすることが可能であるため、本当に有益な人間関係を獲得したり維持したりするためにはより積極的な投資が必要だからだという仮説を立て、さまざまな実証研究を行ってきた。しかし、これらの研究の多くはアメリカと日本などの特定の2か国の比較にとどまっており、この理論が世界の他の国々や地域にも適用可能かはわかっていなかった。また、関係流動性の高い社会と低い社会が生まれた原因も明らかになっていなかった。
過酷な自然・社会環境や食料生産の方法が関係流動性に影響
今回、研究グループはソーシャルネットワークサイトFacebookの広告を用いて募集した、世界39の国と地域の住民1万6,939名から、インターネット上に設けた計23言語のアンケートに対する回答を得た。アンケートではまず、関係流動性の指標として、回答者が住む地域社会の人々がどの程度新しい他者と出会うことができ、また人間関係をどの程度自由に選択したり取り替えたりすることが可能だと思うかを尋ねた。また、回答者の心理と行動を測る項目として、友人や恋人に対する親密な感情の強さや自分の秘密を打ち明ける行動、困っている人に対して自己犠牲的に援助する気持ちの強さなどを尋ねた。分析では、当該国の平均的な関係流動性が、その国が過去におかれていた環境や現在おかれている環境の性質とどのように関連しているか、またその国の回答者の平均的な心理と行動の傾向とどのように関連しているかなどを検討したという。
その結果、関係流動性は主に欧米圏、オセアニア圏、中南米圏において高く、主にアジア圏と中東圏において低いことが判明。関係流動性が高い国々の人は低い国々の人と比べ、人助けや、友人や恋人に自分の秘密を打ち明けるなど、より積極的に対人関係に関わっていたことがわかった。また、他者に対して親密さを感じやすく、自尊心が高いなど、他の人との人間関係を積極的に作り、また失わないために必要と考えられる心の働きが強いことが判明した。さらに、各国の関係流動性は、当該地域が過去に過酷な自然・社会環境の下にあった場合ほど、また稲作のような相互の助け合いが求められる食料生産を採用していた場合ほど、低い傾向にあったとしている。
これらの結果について、研究グループは「人間の心の多様性の理解に寄与するとともに、インターネットの発展などにより人間関係の流動性が急速に進行しつつある現代社会の将来設計や今後の教育について考える際に参考となることが期待される」と述べている。
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